小銭こぜに)” の例文
旧字:小錢
陳は小銭こぜにを探りながら、女の指へあごを向けた。そこにはすでに二年前から、延べのきん両端りょうはしかせた、約婚の指環がはまっている。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「おめえにゃ、まだ三百のこってら。いますぐ、小銭こぜにで三百くんな。あと三日たちゃ、王さまんとこで、それだけはらってくださらあ。」
坂へかかって駕籠足がにぶると、主水正は夢中で、胸に掛けたふくろから一つかみの小銭こぜにをつかみ出し、それをガチャガチャ振り立てて
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「御同様に運のない者は仕方がない。だが、おまえの方がわたしらより小銭こぜにが廻る。その小遣いを何とかやりくって富でも買ってみるんだね。」
放し鰻 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
商人らしく、こう請判と一しょに、飛脚屋の手へ小銭こぜにをにぎらせ、二階へもどると、何はおいてもと、まず封を切った。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ナプキンを決めておけば食事ごとにその洗濯代として二十五サンチームぐらいの小銭こぜにを支払わなくても済むからである。
異国食餌抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
この頃のお触書ふれがき。士農工商ある中に、両替仲間相場立ち、大銭おおぜに小銭こぜにを打並べ出しゃ、お白洲しらすでしかりゃせぬ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
チーア卿は、几帳面きちょうめんに精算をし、小銭こぜにの釣銭までちゃんと取って、街を向うへふらふらと歩いていった。
とにかく面白いもんらしいね。ウンウン。それで蘇州へ行って麻雀を買い込んだ。ウンウン。帰りに小銭こぜにが無くなったから切るつもりで、王君のレストランへ偶然に這入った。
焦点を合せる (新字新仮名) / 夢野久作(著)
忠作も、お松から岩見銀山を買うべく頼まれた小銭こぜにを持って屋敷の外へ出てしまいました。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ペテロはその時ぽつちりばかりの小銭こぜにしか持つてゐなかつたが、イエスがどうなさるかと思つてそちらを見ると、イエスはたいそう真面目な顔をして何もやらずに通りすぎてしまつた。
イエスとペテロ (新字旧仮名) / 片山広子(著)
さう気がつくと、氏は軽く頷いてその小銭こぜにをその儘自分の懐中ふところに納めてしまつた。
ワグナーの穿いている靴には底がなく、髪を刈る小銭こぜにさえ持っていないような、骨の髄にむ幻滅の悲哀をめ尽して、つくづく夢みるのは、故郷ドイツの天地、——その民衆と芸術である。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
それから私は三人の子供たちに小銭こぜにをすこしあたえて、彼等と別れた。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
小銭こぜにの音をちゃらちゃらとさして、女中が出そうにしましたから
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
『あればかりの小銭こぜに……』
猿ヶ京片耳伝説 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そのなかでも評判になったのは五尺あまりの大かぶとで、鉢もしころもすべて小銭こぜにを細かく組みあわせて作ったのでした。これは珍らしいと云うので大変な評判。
半七捕物帳:65 夜叉神堂 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「ここの家の電話じゃまずい。やッぱり自働になさい。一円立替えます。」と重吉はたもとから小銭こぜにを出す。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
鼻のさきにを置かれた餓鬼がきの眼つきといった形である。のどが鳴る。鼻がピクつく。とうとう小銭こぜにの音をさせ始めた。懐中ふところを合せて、買おうという相談になったらしい。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
乞食の懐中奥ふかく銀の小銭こぜにがたくさんあり、金貨が二十枚あつた。
イエスとペテロ (新字旧仮名) / 片山広子(著)
「すばらしいことになりましたなあ。おまえさんは、なんてしあわせものなんだろう。わたしが両替りょうがえして、小銭こぜににかえてあげましょう。ターレルのような大きな金じゃ、しようがないでしょうから。」
出れば近所の子にせがまれてありったけの小銭こぜにをやっていたが、その無意味な贈物おくりものが不道徳な行為だと友人にいさめられて、ある日道を変えて宿へ逃げ帰るところを、斥候せっこうを放った子供達に包囲されて
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
親父の株があるので、小銭こぜにも廻る。そこで、いつの間にか神明前のさつきという小料理屋のお浜という娘と出来てしまって、始終そこへ出這入りをしている。
半七捕物帳:64 廻り灯籠 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いや、かんじんなのは、そいつよりも、親切ごかしに人の娘をもてあそんで、その上にもなお、おめえたちのしがねえ夜稼よかせぎの小銭こぜにまでしぼろうとしている悪どい野郎のほうだった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かれは木綿の財布に小銭こぜにを少しばかり入れているだけで、ほかにはなんにも手掛りになりそうなものを持っていなかったが、半七はその右の手のひらの鼓胝つづみだこをあらためて
半七捕物帳:17 三河万歳 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
半助はにが笑いして、いくらかの小銭こぜにをだしてやった。それをもらうと、蛾次郎は人ごみをかきわけてふところいッぱい焼餅やきもちを買いもとめ、ムシャムシャほおばりながら歩きだした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
女は木綿の巾着きんちゃくにちっとばかり小銭こぜにを入れているだけで、ほかに証拠となるような品物を身に着けていなかった。死体はひとまず高源寺に預けられて、心あたりの者の申し出を待つほかは無かった。
半七捕物帳:66 地蔵は踊る (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)