小波ささなみ)” の例文
円形の池を大廻りに、みどりの水面に小波ささなみ立って、二房ふたふさ三房みふさ、ゆらゆらと藤のなみさかしまみぎわに映ると見たのが、次第にちかづくと三人の婦人であった。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
月の光が行通れば、晃々きらきらもすそが揺れて、両の足の爪先つまさきに、うつくしあやが立ち、月が小波ささなみを渡るように、なめらかに襞襀ひだを打った。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と殊勝に正吉が、せめ念仏で畳掛けるに連れて、裂目がひれのように水をさばいてく、と小波ささなみが立って、後を送って、やがて沼の中ばに、じっと留まる。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
背後うしろ突抜つきぬけの岸で、ここにもつちと一面な水があおく澄んで、ひたひたと小波ささなみうねりが絶えず間近まぢこう来る。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その日一天うららかに空の色も水の色も青く澄みて、軟風おもむろに小波ささなみわたる淵の上には、塵一葉ちりひとはうかべるあらで、白き鳥の翼広きがゆたかに藍碧らんぺきなる水面を横ぎりて舞えり。
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その日一天いつてんうららかに空の色も水の色も青くみて、軟風なんぷうおもむろに小波ささなみわたる淵の上には、ちり一葉ひとはの浮べるあらで、白き鳥のつばさ広きがゆたかに藍碧らんぺきなる水面を横ぎりて舞へり。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
与太坊よたぼう父爺ちゃんは何事もねえよ。」と、池の真中まんなかから声を懸けて、おやじは小屋の中をのぞこうともせず、つまさきは小波ささなみぶるばかり沈んだいかだを棹さして、この時また中空なかぞらから白い翼をひるがえして
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ひな——女夫雛めおとびなは言うもさらなり。桜雛さくらびな柳雛やなぎびな花菜はななの雛、桃の花雛はなびな、白とと、ゆかりの色の菫雛すみれびなひなには、つくし、鼓草たんぽぽの雛。相合傘あいあいがさ春雨雛はるさめびな小波ささなみ軽くそで浅妻船あさづまぶね調しらべの雛。五人囃子ごにんばやし官女かんじょたち。
雛がたり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)