)” の例文
が、わたくしとしては天狗てんぐさんの力量りきりょうおどろくよりも、しろそのくまで天真爛漫てんしんらんまん無邪気むじゃきさに感服かんぷくしてしまいました。
僕は夫人とさ程親しい訳ではなかったから、この惨死体を見て悲しむよりは怖れ、怖れるよりはしろ夢の様な美しさに打たれたことを告白しなければならない。
悪霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
大きにさうかも知れない。然しこの間違つた、滑稽な、ぬえのやうな、故意こいになした奇妙の形式は、しろ言現いひあらはされた叙事よりも、内容の思想をなほ能く窺ひ知らしめるのである。
虫干 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
四辺あたりに人眼が無い折などには、文三も数々しばしば話しかけてみようかとは思ったが、万一ばんいちに危む心から、暫く差控ていた——差控ているはしろ愚に近いとは思いながら、尚お差控ていた。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
しかも浅次郎はその身より十ばかりも年嵩としかさなる艶婦にちぎりめしが、ほど経て余りにそのねたみ深きがいとわしく、否しろその非常なる執心の恐ろしさに、おぞふるいて、当時予が家に潜めるをや。
黒壁 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかし委細いさい事情じじょうってわたくしには、あのうつくしいおかお何所どこやらにひそむ、一しゅさびしさ……新婚しんこんよろこぶというよりか、しろつらい運命うんめいに、仕方しかたなしに服従ふくじゅうしているとったような