安々やすやす)” の例文
が、さらに一月ばかり経って見ると、かえって彼はそのために、前よりもなお安々やすやすと、いつまでもめないよいのような、怪しい幸福にひたる事が出来た。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
つばめらは、予期よきしたごとく、あらしって、安々やすやすしまいたけれど、たちは、ひとたまりもなく、うみなかとされてんでしまったのであります。
北海の波にさらわれた蛾 (新字新仮名) / 小川未明(著)
少年 ええ、ええ、安々やすやすと越せたのよ。私を連れて来たその人がね。私の手を引いて門の前まで来ると、門が自然と両方にいて、二人が這入はいるとまたしまったのよ。
レモンの花の咲く丘へ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
屏風びょうぶを立てたるが如き処を安々やすやすと登りて、医師の門口かどぐちまで来りて掻き消すが如くに失せたり。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
買って帰って読んだ浩澣こうかんな医書によって見ても、その手術は割合に簡単なものであるのを知り抜いていたから、その事については割合に安々やすやすとした心持ちでいる事ができた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
さて翌年よくねん正月元日しょうがつがんじつあさ、おきさきはいつものように御殿ごてんの中をあるきながら、おうまや戸口とぐちまでいらっしゃいますと、にわかにお産気さんけがついて、そこへ安々やすやすうつくしいおとこ御子みこをおみおとしになりました。
夢殿 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
爪尖つまさきすべらず、しずか安々やすやすと下りられた。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一瞬間の後陳彩は、安々やすやす塀を乗り越えると、庭の松の間をくぐりくぐり、首尾しゅびよく二階の真下にある、客間の窓際へ忍び寄った。そこには花も葉も露に濡れた、水々しい夾竹桃きょうちくとうの一むらが、………
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)