奔騰ほんとう)” の例文
「……恐ロシイ爆音ヲアゲテ、休ミナク相手ノ上ニ落チタ。まとはずレテ落チタ砲弾ガ空中高ク水柱すいちゅう奔騰ほんとうサセル。煙幕えんまくハヒッキリナシニ……」
人造人間事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
欧米人の為替ブローカーの馬車の群団は、一層その速力にむちをあてて銀行間を馳け廻った。しかし、金塊の奔騰ほんとうするに従って、海港には銀貨が充満し始めた。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
然しトルストイは最後の一息を以ても其理想を実現すべく奔騰ほんとうする火の如き霊であると云う事が、墨黒すみぐろの夜の空に火焔かえんの字をもて大書した様に読まるゝのです。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
情熱の奔騰ほんとうするところ、ためらわず進め! 墜落しても男子の本懐、何でもやってみる事だ、という激励のようでもあり、結局、私にも何が何やらわからないのだ。
花吹雪 (新字新仮名) / 太宰治(著)
噴泉の如く奔騰ほんとうしたが、それを書く紙がなかったので、先輩にして生涯のよき友人であったシュパウンは、紙を与えてシューベルトの天才の所産を書かせたりした。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
白金色に輝きながら、数百丈の高さに奔騰ほんとうする、重量ある柱であった。その下に、鹿児島西郊の鹿児島航空隊の敷地が見え、こわれた格納庫かくのうこや赤く焼けた鉄柱が小さく見えた。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
その身動きもしない先生の貧相な姿を見てゐると、私は一種の重苦しい壓迫が自分の胸に迫るのを感ぜずにはゐられなかつた。一時に奔騰ほんとうした感情が漸次に鎭靜してくるのを私は意識した。
猫又先生 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
風と共に雲が奔騰ほんとうして来て、忽ちに岩角を包み小屋を包み、今まで見えていた一の池、二の池、三の池の姿も一切隠れてしまう。この雲の徂徠、雲の巻舒けんじょ、到底下界では見られない現象である。
木曽御嶽の両面 (新字新仮名) / 吉江喬松(著)
激湍げきたん、白い飛沫ひまつ奔騰ほんとうする観音の瀬にかかって、舟はゆれにゆれて傾く。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
この女は常にはただニヤニヤしているばかりの凡そだらしない、はりあいのない女であったが、遊びの時の奔騰ほんとうする情熱はまるで神秘な気合のこめられた妖精ようせいであった。別の人間としか思われない。
二十七歳 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
なんという奔騰ほんとう
原爆詩集 (新字新仮名) / 峠三吉(著)
次の爆弾が、空から投げ落とされるたびに、物凄い火柱が立って、それはやがて、おびただしい真白な煙となって、空中に奔騰ほんとうしている有様が、夜目にもハッキリと見えた。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
この驚くべき天才の奔騰ほんとうは、五十一曲の歌劇の創作となった。これこそ人間業にんげんわざ以上の仕事である。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
膃肭獣おっとせいの波、咆哮、奔騰ほんとう
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
やがて洋上には、真白な水柱すいちゅう奔騰ほんとうした。攻撃機が一つ一つ、なみに呑まれてしまったのであった。
地球要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
シューベルトの楽想は、滾々こんこんとして尽くる時がなく、手近に詩集があれば、取り上げては直ちにそれに作曲した。驚くべき天才の奔騰ほんとうのために、偶々たまたまそのはけ口を座右の詩に求めたのかも知れない。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
ミシミシという音がして、液体空気が奔騰ほんとうした。その後で箸を持ち上げると、真赤な林檎が洋盃コップの底から現れたが、空中に出すと忽ち湿気を吸って、表面が真白な氷でおおわれた。
人間灰 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ドッと奔騰ほんとうする水。
加古かこ古鷹ふるたか青葉あおば衣笠きぬがさの艦列から千メートル手前に、真白な、見上げるように背の高い水煙が、さーッと、奔騰ほんとうした。どれもこれも、一定の間隔を保って、見事に整列していた。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ドツと奔騰ほんとうする水。
それがたちまち空中高く奔騰ほんとうする火焔に変った。焼夷弾が落下したのだった。
空襲下の日本 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それは御坂みさか山脈のあたりから発生した上昇気流が、折からの高温にはぐくまれた水蒸気を伴って奔騰ほんとうし、やがて入道雲の多量の水分を持ち切れなくなったときに俄かにドッと崩れはじめると見るや
(新字新仮名) / 海野十三(著)