大原女おはらめ)” の例文
頭に物を乗せた大原女おはらめが通る。河原の瀬を、市女笠いちめがさの女が、使童わらべに、何やら持たせて、濡れた草履で、舎人町とねりまちの方へ、上がってゆく。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
山路で、大原女おはらめのように頭の上へ枯れ枝と蝙蝠傘こうもりがさを一度に束ねたのを載っけて、靴下くつしたをあみながら歩いて来る女に会いました。
先生への通信 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
黒木を売る大原女おはらめびやかな声までが春らしい心をそそった。江戸へ下る西国大名の行列が、毎日のように都の街々を過ぎた。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
羅生門らしょうもんと云う芝居を見ると、頭に花を戴いた大原女おはらめが、わたしは一条大宮から八瀬やせへ帰るものでござりますると云う処があったが、遠い昔
田舎がえり (新字新仮名) / 林芙美子(著)
清水きよみずの茶店を守っている八十幾歳の老婆の昔語りや、円山公園の夜桜、それから大原女おはらめの話、また嵯峨野の奥の古刹から、進んでは僧庵や尼僧の生活まで。
恩人 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
この大原女おはらめの名は、京の名と共に人々に聞え、この旧都の風情ふぜいをいや増さしめていることは誰も知るところです。大原村の女たちは今も決してこの風俗を変えませぬ。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
山に入りて春はけたるを、山をきわめたらば春はまだ残る雪に寒かろうと、見上げる峰のすそうて、暗き陰に走る一条ひとすじの路に、爪上つまあがりなる向うから大原女おはらめが来る。牛が来る。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これや名代なだい大原女おはらめ、木綿小紋に黒掛襟の着物、昔ゆかしい御所染の細帯、物を載せた頭に房手拭、かいがいしくからげた裾の下から白腰巻、黒の手甲に前合せ脛巾はばきいやしからず
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
大原女おはらめのものうるこゑや京の町ねむりさそひて花に雨ふる
恋衣 (新字旧仮名) / 山川登美子増田雅子与謝野晶子(著)
幾度か車は行きちがふ牛曳と大原女おはらめとに道を讓合つた。
十年振:一名京都紀行 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
時雨しぐれつゝ大原女おはらめ言葉かわしゆく
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
岩の蔭から振向いてみると、通りかかった里の女房であろう、大原女おはらめのような山袴やまばかま穿き、髪は無造作に油けもなく束ねて肩へげている。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
京の大原女おはらめは世にも名高いが、実はそれよりももっと美しく、もっと特色があり、もっと複雑である。日本の地方に見られる風俗としては真に特筆すべきものと思える。
陸中雑記 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
そうすると、大原女おはらめが答えて言うには
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
牛車と大原女おはらめの往來が多くなる。
十年振:一名京都紀行 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
「あれが大原女おはらめなんだろう」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
見る心は違うが、庭向うの別室に来ているふたりの侍も、しきりと、そこから見える四めいたけや、向うの河添いをゆく大原女おはらめの群れなどを珍しそうに見廻していた。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もとより脛巾はばき足袋たび藁沓わらぐつなどは申すに及びません。これが野良のらで働く出立いでたちであります。京の大原女おはらめは名が響きますが、御明神の風俗はそれにも増して鮮かなものであります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
じょうじょうへ花売りにでる大原女おはらめが、散りこぼしていったのであろう、道のところどころに、連翹れんぎょうの花や、白桃しろもも小枝こえだが、牛車ぎゅうしゃのわだちにもひかれずに、おちている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)