とっ)” の例文
この一言は深く吾輩を感激せしめた。僕は同君には日頃親しみはないけれども、君の手をとって打振るほどよろこばしく思った。
平民道 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「今度だけ私にまかして下さい、何とか致しますから」と言われて自分はしいて争わず、めいり込んだ気を引きたてて改築事務を少しばかりとって床にいた。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
不図ふとした事で私が筆をとって、事の必要なる理由を論じて喋々喃々ちょうちょうなんなん数千言、んでくゝめるようにいって聞かせた跡で、間もなく天下の輿論よろんが一時に持上もちあがって来たから
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
文学上では私は写実主義をっていた。それも研究の結果写実主義をとして写実主義をとったのではなくて、私の性格では勢い写実主義に傾かざるを得なかったのだ。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
父はランプのもとで手紙をしたためてましたが、僕を見て、『なんぞ用か』と問い、やはり筆をとって居ます。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
秋の日影もややかたぶいて庭の梧桐ごとうの影法師が背丈を伸ばす三時頃、お政は独り徒然つくねんと長手の火鉢ひばちもたれ懸ッて、ななめに坐りながら、火箸ひばしとって灰へ書く、楽書いたずらがき倭文字やまともじ、牛の角文字いろいろに
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
英吉利イギリスの軍艦が来て、去年生麦にて日本の薩摩のさむらいが英人を殺したその罪は全く日本政府にある、英人はただ懇親こんしんもって交ろうと思うてれまでも有らん限りやわらかな手段ばかりをとって居た
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
金銭なんぞ取扱うよりも読書一偏の学者になって居たいというかんがえであるに、ぞんかけもなく算盤そろばんとって金の数を数えなければならぬとか、藩借はんしゃく延期の談判をしなければならぬとかう仕事で
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)