団子坂だんござか)” の例文
旧字:團子坂
かねてからわが座敷の如何いかにも殺風景なのを苦に病んでいた彼は、すぐ団子坂だんござかにある唐木からき指物師さしものしの所へ行って、紫檀したん懸額かけがくを一枚作らせた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すぐ向うの腰掛には会社員らしい中年の夫婦が十歳くらいの可愛い男の子を連れておおかた団子坂だんござかへでも行くのだろう。
障子の落書 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
白山上は団子坂だんござかから来た道、水道橋すいどうばしから来た道、高崎屋の方から来た道と、三つが一緒になって板橋へ延びています。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
根津ねづの低地から弥生やよいおか千駄木せんだぎの高地を仰げばここもまた絶壁である。絶壁のいただきに添うて、根津権現ごんげんの方から団子坂だんござかの上へと通ずる一条の路がある。
或日又遊びに来た室生は僕の顔を見るが早いか、団子坂だんござかの或骨董屋こつとうや青磁せいじ硯屏けんびやうの出てゐることを話した。
野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「それは戯談じょうだんだがネ、芝居はマア芝居として、どうです、明後日あさって団子坂だんござかへ菊見という奴は」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
孝助は新五兵衞と同道にて水道端を立出たちい切支丹坂きりしたんざかから小石川にかゝり、白山はくさんから団子坂だんござかりて谷中の新幡随院へ参り、玄関へかゝると、お寺にはうより孝助の来るのを待っていて
花時以外の物見遊山ものみゆさん、春は亀戸の梅、天神の藤、四つ目の牡丹ぼたん、夏は入谷いりやの朝顔、堀切の菖蒲、不忍しのばずの蓮、大久保の躑躅つつじ、秋は団子坂だんござかの菊、滝野川の紅葉、百花園の秋草、冬は枯野に雪見
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
汽車で上野に着いて、人力車をやとって団子坂だんござかへ帰る途中、東照宮の石壇の下から、薄暗い花園町に掛かる時、道端にむしろを敷いて、球根からすぐに紫の花の咲いた草をならべて売っているのを見た。
サフラン (新字新仮名) / 森鴎外(著)
場所は本郷ほんごう区のKまちです。電車で云えば肴町の停留所で下車して、団子坂だんござかの通りを右へ、三つ目の細い横町を左へ折れて、生垣いけがきに挟まれた道を一丁程行くと、石の門のある古い西洋館があります。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ある日の午後三四郎は例のごとくぶらついて、団子坂だんござかの上から、左へ折れて千駄木せんだぎ林町はやしちょうの広い通りへ出た。秋晴れといって、このごろは東京の空もいなかのように深く見える。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
入谷いりやの朝顔と団子坂だんござかの菊人形の衰微は硯友社けんゆうしゃ文学とこれまたその運命を同じくしている。
葛飾土産 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
駒込団子坂だんござかに移って初めて大がかりの菊人形、その年々の歌舞伎狂言を生写し俳優の似顔からセリ出し、回り舞台の大仕かけに人気を呼んで、二十年頃の団子坂は狭い坂道を押すな押すな
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
と云う廻りの声に驚き引裂ひきさいた手紙を懐中して、春部梅三郎は若江の手を取って柵を押分け、身体を横にいたし、ようようの事で此処こゝを出て、川を渡り、一生懸命にとっとゝ団子坂だんござかの方へ逃げて
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
僕の青磁せいじ硯屏けんびやう団子坂だんござか骨董屋こつとうやで買つたものである。もつとも進んで買つたわけではない。僕はいつかこの硯屏のことを「野人生計事やじんせいけいのこと」といふ随筆の中に書いて置いた。それをちよつと摘録てきろくすれば——
身のまはり (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
瀬戸は団子坂だんござかの方へ、純一は根津権現の方へ、ここで袂を分かった。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
第七回 団子坂だんござか観菊きくみ 上
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
当代の碩学せきがく森鴎外もりおうがい先生の居邸きょていはこの道のほとり、団子坂だんござかいただきに出ようとする処にある。
向うの机を占領している学生が二人、西洋菓子を食いながら、団子坂だんござかの菊人形の収入についておおいに論じている。左に蜜柑みかんをむきながら、そのしるを牛乳の中へたらしている書生がある。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)