唸声うなりごえ)” の例文
つづいて物の倒れる音、罵る音、叫ぶ声、最後に喉でも突き刺されたような恐ろしい、物凄い、荒々しい悲鳴、唸声うなりごえがする。
の水音に消されて、今までは誰も聞付ききつけなかったが、何処どこやらでかすか唸声うなりごえが聞えるようである。巡査はたちまちに耳をそばだてた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
身動みうごきたくも、不思議なるかな、ちッとも出来んわい。其儘で暫くつ。竈馬こおろぎ、蜂の唸声うなりごえの外には何も聞えん。
破目われめから漏れおちる垂滴すいてき水沫しぶきに、光線が美しい虹を棚引たなびかせて、たこ唸声うなりごえなどが空に聞え、乾燥した浜屋の前の往来には、よかよかあめの太鼓が子供を呼んでいた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
眺めがよいというのではありませんが、あの頻繁ひんぱんに目の前を汽車が往復した家とは比較になりません。ただ夜更よふけには動物園の猛獣の唸声うなりごえがすると、女中たちはこわがりました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
ある晩、彼は小供の寝る夜具のすそ腹這はらばいになっていたが、やがて、自分のった魚を取り上げられる時に出すような唸声うなりごえげた。この時変だなと気がついたのは自分だけである。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ウウウウ……」何とも云えぬ気味の悪い唸声うなりごえがしたかと思うと、T氏がヌッと椅子から立上って、バッタリと床の上へ倒れた。そして、手足をバタバタやりながら、苦悶くもんし始めた。
赤い部屋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ウームと恐ろしい唸声うなりごえがして私の目の前に大きな身体がドサリとぶったおれた。
空中墳墓 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と、見る間に虎の唸声うなりごえが聞えて、老人の顔には真赤な血がかかった。
虎媛 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
巡査は慌てて飛退とびのくと、石はかたえの岩角にあたって、更に跳ね返っての𤢖の上に落ちた。𤢖のきずつける顔は更に微塵みじんに砕けて、怪しい唸声うなりごえは止んだ。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
唸声うなりごえ顕然まざまざと近くにするが近処あたりに人が居そうにもない。はッ、これはしたり、何のこッた、おれおれ、この俺がうなるのだ。微かな情ない声が出おるわい。そんなに痛いのかしら。
ウウウーと、物凄い唸声うなりごえをあげて、真赤な消防自動車が、砲弾のように坂を駈け上っていった。麻布あざぶの方に、烈々たる火の手が見える。防毒面をつけた運転手は、防毒面の下で半泣はんなきになっていた。
空襲警報 (新字新仮名) / 海野十三(著)
蒸暑い夏の或真夜中に、お島はそこらを開放あけはなして、蚊帳かやのなかで寝苦しい体を持余もてあましていたことがあった。っぱいような蚊の唸声うなりごえ夢現ゆめうつつのような彼女のいらいらしい心を責苛せめさいなむように耳についた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
次に変な唸声うなりごえを聞いた。
江川蘭子 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
かすか唸声うなりごえが左の隅に聞えたので、彼は其方そのほうへ探って行くと、一枚の荒莚あらむしろが手に触れた。莚を跳退はねのけて進もうとすると、何者かその莚のはしを固く掴んでいるらしい。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)