咽喉元のどもと)” の例文
咽喉元のどもと過ぐれば熱さを忘れると云って、よく、忘れてはしからんように持ち掛けてくるが、あれは忘れる方が当り前で、忘れない方がうそである。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
突然いきなり山三郎の提げておりました所の關の兼元のの方へ両手を掛けて自らぐっと首筋をさし附けて、咽喉元のどもとをがっくり、あっと云って前へのめるから
彼は直ちに匕首あいくちが自分の咽喉元のどもとへ突き刺さるだろうと観念していると、曲者は一方の腕で何処までも頸をやくしたまゝ、一方の手で二度も三度も顔の上を
かくておきみは、この老婆の手によつて、そのかぼそい咽喉元のどもとを完全につかみ取られてしまつたのであつた。
天国の記録 (旧字旧仮名) / 下村千秋(著)
奧方おくがた衣紋えもんあはせて、ついで下襦袢したじゆばんしろえりところ厭味いやみして、咽喉元のどもとひとしごいたものなり。
銭湯 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そもそもこのたび、京都の騒動、聞いてもくんねえ、長州事件の咽喉元のどもと過ぐれば、熱さを忘れるたとえにたがわぬ、天下の旗本、今の時節を何と思うぞ、一同こぞって愁訴しゅうそをやらかせ
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
良心は暴君と變り、情熱の咽喉元のどもとを掴み、嘲笑して彼女にその可愛い足を泥濘ぬかるみの中にひたすばかりだと云ひ、彼はその鐵の腕をもつて彼女を底知れぬ苦惱の深淵に突き落とすと誓ふのだ。
源吉は、胃の中のものが、咽喉元のどもとにこみ上って、クラクラッと眩暈めまいを感ずると、周囲あたりが、急に黒いもやもやしたものにとざされ、後頭部に、いきなり、たた前倒のめされたような、激痛を受けた。
鉄路 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
夫人の実父の老両班ヤンパンは、いきなり腰の刀を抜いて夫人の咽喉元のどもとを刺した。
悪僧 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
甘い涙が、咽喉元のどもとまで、あふれさうな気持ちだつた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
飯のを離れる事約二昼夜になるんだから、いかに魂が萎縮しているこの際でも、御櫃おはちの影を見るや否や食慾は猛然として咽喉元のどもとまで詰め寄せて来た。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
おきみはその咽喉元のどもとを絞められて、この闇のどん底へ叩きのめされてしまつたとしても、周三だけはむしろ餘計者として他界へはふり出されるのかと思ひの外、同じやうに、その首と足とに
天国の記録 (旧字旧仮名) / 下村千秋(著)
長州征伐咽喉元のどもと過ぎれば
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その妖怪えうくわいの凄みでおきみを引つ捕へて一室に監禁し、脅迫し、その法律的犯罪をも絞り出して、彼女の咽喉元のどもとを完全に抑へ込み、同時に周三をも「捕へた一匹の生き餌」としてしまつたことは
天国の記録 (旧字旧仮名) / 下村千秋(著)