しはぶ)” の例文
少しく離れゐたりしベアトリーチェは、ゑみを含み、さながらふみに殘るかのジネーヴラの最初のとがを見てしはぶきし女の如く見えき 一三—一五
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
果して人の入来いりきて、夕餉ゆふげまうけすとて少時しばしまぎらされし後、二人はふべからざるわびしき無言の中に相対あひたいするのみなりしを、荒尾は始て高くしはぶきつ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
が夜中、厠に立てば、裏の山には月が澄んで、はたけの葱さへ一つ一つに真青まつさをだ。虫ももう鳴かぬが、それだけ凄い。首を竦めて、しはぶく時の寒さと云へばまた格別だ。
観相の秋 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
もう日暮時で、人里たえた山腹の道を寒さに慄へながら急いでゐると不意に道上で人のしはぶく聲を聞いた。非常に驚いて振仰ぐと、畑ともつかぬ畑で頻りと何やら眞青な葉を摘んでゐる。
いねてもつかれずや、コホンコホンとしはぶく声の、骨身にこたへてセツナそうなるにぞ、そのつど少女は、慌てて父が枕もとなる洗ひ洒しの布片きれを取りて父に与へ、赤きものの交りたる啖を拭はせて
小むすめ (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
人も豚も雞も蜥蜴も、海も樹々も、しはぶき一つしない。
ひきつるけはひ、しはぶきて
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
絶間たえまなく甃石しきいししはぶけり
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
しはぶきながら
独楽 (新字旧仮名) / 高祖保(著)
この日貫一は授業はじめの式のみにて早く帰来かへりきにけるが、した座敷にはたれも見えで、火燵こたつの間に宮のしはぶく声して、後は静に、我が帰りしを知らざるよと思ひければ、忍足に窺寄うかがひよりぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ランスロットと王妃の戀を知り、しはぶきしてこの咎を知れるを示せり。猶ダンテがそのことばを改むるほど祖先に誇りを感ずるを見、世人共通の弱點に對してベアトリーチェの微笑せるに似たり
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
こつあげて帰る丘べの霜ぐもり常にもがもな人はしはぶ
風隠集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
貫一はしはぶきも遣らで耳を澄せり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)