厭気いやき)” の例文
旧字:厭氣
何だかだととても註文ちゅうもんがむずかしくて、私もそれで厭気いやきも差したの。自殺したのも、内面にそういう悩みもあったんじゃないの。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
愛想あいそが尽きたか、可愛想かわいそうな。厭気いやきがさしたらこの野郎に早く見切をつけやあナ、惜いもんだが別れてやらあ。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
モーパサンの小説に、或男が内縁の妻に厭気いやきがさしたところから、置手紙か何かして、妻を置き去りにしたまま友人の家へ行って隠れていたという話があります。
現代日本の開化 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分が、あまりに大胆に彼の接吻を受けたので、厭気いやきがさしたのではないかと思ったりした。
第二の接吻 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
このばかばかしい悲鳴でKは男に厭気いやきがさした。自分が告訴されていることを信じないのなら、ますます結構だ。おそらく自分のことを裁判官だとさえ思っているのだろう。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
源氏はたいした執心を持つのでない女の冷淡な態度に厭気いやきがして捨てて置く気になっていたが、頭中将の話を聞いてからは、口上手くちじょうずな中将のほうに女は取られてしまうであろう
源氏物語:06 末摘花 (新字新仮名) / 紫式部(著)
およそ二週間ばかり費し、ある晩ひょっこり彼女をたずねましたら、彼女は顔色をかえて、「身の上ばなしをしたから、それで厭気いやきがさして来なかったのでしょう」と私をなじりました。
遺伝 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
ここには何も異常な困難が呈示ていじされているのではなかった。かれをなえさせるのは、もう何物によっても満たされえぬどんよくとなって現われている厭気いやき——そこから来る狐疑こぎであった。
彼はその無駄むだ話に厭気いやきがさしてきた。このようにひどく苦しんだ者が、苦しみのうちにもっと真面目まじめにならないで、そんなつまらない事柄をどうして面白がるのか、彼には理解がいかなかった。
小春が見るからまたかと泣いてかかるにもうふッつりと浮気はせぬと砂糖八分の申し開き厭気いやきというも実は未練窓の戸開けて今鳴るは一時かと仰ぎればお月さまいつでも空とぼけてまんまるなり
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
自分だけが命ぜられたツモリで各々めいめい一生懸命になって骨を折ってると、イツカ互に同士討どうしうちしている事が解るから誰も皆厭気いやきがさして手を引いてしまう。手を引くばかりでなく反感を持つようになる。
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
其の上盗人ぬすっと根性があると云ったもんだから、相川も厭気いやきになり、話がもつれて、今度は到頭とうとう孝助が相川の養子になる事にきまり、今日結納の取交とりかわせだとよ、向うでは草履取でさえ欲しがるところだから
厭気いやきがさしてたまらないのです。
「長引いて厭気いやきがさすと困る」
嫁取婿取 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
せっかく話をきめたには決めたけれど、いろいろ話をきいてみると、厭気いやきが差して……第一松川がいやな顔をするもんで……。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
昔の自分であれば厭気いやきのさしてしまう相手であろうが、今日になっては完全なものは求めても得がたい、足らぬところを心で補って平凡なものに満足すべきであるという教訓を
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
細君は何時でも此所ここまで来て黙ってしまうのを例にしていた。彼女の性質として、夫がこういう態度に出ると、急に厭気いやきがさして、それから先一歩も前へ出る気になれないのである。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
、彼は感じたので、すでに右の作には厭気いやきがさし始めていた。
それがまされるような気持で、のろわしい現実の自身と環境にすっかり厭気いやきが差してしまうのだった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
敬太郎けいたろうはそれほどげんの見えないこの間からの運動と奔走に少し厭気いやきして来た。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
だんだん奥向きのことにたずさわるようになっていることは、笹村にもうなずかれたが、そこの窮屈な家風に、ようやく厭気いやきのさしていることも、時々の口吻くちぶりで想像することが出来た。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)