しりぞ)” の例文
〔評〕三條公の筑前に在る、或る人其の旅況りよきやう無聊むれうさつして美女を進む、公之をしりぞく。某氏えんひらいて女がくまうく、公ふつ然として去れり。
かくて彼等はあたかも迷ひ覺めしごとく去り、我等はかく多くのこひと涙をしりぞくる巨樹おほきのもとにたゞちにいたれり 一一二—一一四
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
ト同時に、この内証話からは、いたく自分が遠ざけられ、はばかられ、うとまれ、かつしりぞけられ、邪魔にされたごとく思ったので、何となく針のむしろ
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この句の線香は坐禅観法の人の座辺に立てたものかも知れぬが、縷々るるたる香煙はなお多少蚊をしりぞける力を持っている。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
旅館の主人、馬を勧め、剛力がうりきを勧め、ござを勧め、編笠あみがさを勤む、皆之をしりぞく、この極楽の山、たゞ一本の金剛杖こんがうづゑにて足れりと広舌くわうぜつして、朝まだき裾野をく。
霧の不二、月の不二 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
己は極力それをしりぞけようとした。しかし卻けても又来る。敵と対陣して小ぜりあいの絶えないようなものである。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
葡萄牙ポルトガル人を先駆として東洋の印度インドや支那や日本に力を伸して来たが、今はすでに英国が葡萄牙ポルトガルしりぞけ、和蘭オランダを圧して、東洋貿易を独占しようとして、支那と交易し
二千六百年史抄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
この時アヌンチヤタが我をしりぞけて人に從ひし悲痛は、却りて我心を抑し鎭むるなかだちとなりぬ。
彼は自ら命じ自ら行なって、自分のあらゆる幸福を相次いでしりぞけてしまった。一日にしてコゼットをすべて失った後、次に再び彼女を少しずつ失うという、悲惨な目に彼は出会った。
私のせつない願いをしりぞけて、私を置き去りにした母である。私は今なおそれを忘れることはできない。けれどこうして親身に私のことを思ってくれることを思うと、私もやはり嬉しかった。
父の兄弟に吉田大助あり、即ち松陰の養父なり。彼れ剛正にしてつとに大志あり。経史を精研し、一家言を為さんと欲す。ようを病み、自から起たざるを知り、異薬をしりぞけ、特に従容しょうようとして死す。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
僕はさいの愛に自信があるから、広瀬君の冗談を一言でしりぞけてしまった。
妻の秘密筥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
私は、家びとの望みをしりぞけて、国学院に入り、又、そこを出てから二十年、長い扶養を、家から受け続けた。兄も段々あきらめて、私の遊び半分の様な為事の成長を、待ち娯む気になつて居たらしい。
古代研究 追ひ書き (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
(マルガレエテに敬意を表してしりぞく。)
それ己より一切のねたみをしりぞくる神の善は、己が中に燃えつゝ、光を放ちてその永遠とこしへの美をあらはす 六四—六六
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
陳の玄機をうことがしきりなので、客は多くしりぞけられるようになった。書をもとめるものは、ただ金を贈って書を得るだけで、満足しなくてはならぬことになったのである。
魚玄機 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「橋本閣下は失敬です。無実の罪を着せて、僕をしりぞける積りです」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
一言いちごんのもとにしりぞけたんです。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
紫玉が祝儀をしりぞけたのは曲が茶弘にあったのである。紫玉は堅くこの説を持して動かなかった。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
と光子夫人はしりぞけた。
冠婚葬祭博士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
しかしもしそうなら、初にへいしりぞけたはずである。李は玄機に嫌われているとも思うことが出来ない。玄機は泣く時に、一旦いったん避けた身を李にもたせ掛けてさも苦痛に堪えぬらしく泣くのである。
魚玄機 (新字新仮名) / 森鴎外(著)