剥奪はくだつ)” の例文
それを剥奪はくだつされた日の傷心は日とともにうすれて、あたかも自分の自由意志で今日の苦しみを招いたような悔恨に取りつかれた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
この理を明らかにさせたまえ。罪なくして罪に当たり、官位を剥奪はくだつされ、家を離れ、故郷を捨て、朝暮歎きに沈淪ちんりんしたもう。
源氏物語:13 明石 (新字新仮名) / 紫式部(著)
かみなりに家を焼かれてうりの花。そんな古人の句の酸鼻さんびが、胸に焦げつくほどわかるのだ。私は、人間の資格をさえ、剥奪はくだつされていたのである。
(新字新仮名) / 太宰治(著)
そういう楽しい生活が無限に続いてくれることを祈っていた私だが、入園後まだ浅き或る日のこと、私の楽しい気持は突然剥奪はくだつされるに至った。
大脳手術 (新字新仮名) / 海野十三(著)
要するに社会の婚姻は、愛を束縛して、圧制して、自由を剥奪はくだつせむがために造られたる、残絶、酷絶の刑法なりとす。
愛と婚姻 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
就中なかんずく儂の、最も感情を惹起じゃっきせしは、新聞、集会、言論の条例を設け、天賦てんぷの三大自由権を剥奪はくだつし、あまつさのうらの生来せいらいかつて聞かざる諸税を課せし事なり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
其權利を剥奪はくだつされて後は、江戸の秤座——通四丁目の守隨彦太郎獨り榮えて、全國の秤を掌り、富貴權勢飛ぶ鳥を落す勢ひがあつたと言はれて居ります。
叙位じょい除目じもくのことまで、清盛父子のためにこう自由にされては、やがて、自分たちの官位もいつ剥奪はくだつされて
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
合理主義的な行き方が、飜訳者から自己の情緒本位の創意を剥奪はくだつせよ、と主張するのはいかにも正しい。
翻訳の生理・心理 (新字新仮名) / 神西清(著)
人間としての権利も不当不条理に剥奪はくだつされ、かつて前例のないほどの道化た待遇を受けながら、悶えもせず、嗟嘆さたんもせず、見るからに閑寂かんじゃくな生活を送っています。
ハムレット (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
先ず山名政豊は将軍に降り、次いで富樫とがし政親等諸将相率いて、東軍に降るに至った。けだし将軍義政が東軍に在って、西軍諸将の守護職を剥奪はくだつして脅したからである。
応仁の乱 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
刹那せつな彼の神経を萎縮いしゅくさせて、とっさの判断、敏速機宜きぎの行動等をいっさい剥奪はくだつし、呆然として彼をいわゆる不動金縛かなしばりの状態に、一時佇立ちょうりつせしめたのだと省察することができる。
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
私は自分の力に従って自分の義務を尽くし、自分のなし得る善をなした。しかる後に私は、追われ、狩り出され、追跡され、迫害され、誹謗ひぼうされ、嘲笑ちょうしょうされ、侮辱され、のろわれ、人権を剥奪はくだつされた。
マターファは称号剥奪はくだつの上、遥かヤルート島へ流謫るたくされ、彼の部下の酋長しゅうちょう十三人もそれぞれ他の島々に追放された。叛乱者側の村々への科料六千六百ポンド。ムリヌウ監獄に投ぜられた大小酋長二十七人。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
その権利を剥奪はくだつされて後は、江戸の秤座——通四丁目の守随彦太郎独り栄えて、全国の秤をつかさどり、富貴権勢飛ぶ鳥を落す勢いがあったと言われております。
私が激昂げっこうして、またいつかのように藤野先生に御注進申し上げ、そうして、藤野先生は愕然がくぜんとして矢島を呼び、彼を大いに叱咤しったして幹事の栄職を剥奪はくだつする
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
官位も剥奪はくだつせよといわれて、いよいよ、壁際かべぎわへ押しつけられた形だから、このままでは済むまいとか。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一万五千石を六十五石に削った政府——家臣七百名の士籍を剥奪はくだつし、ご同様、当日より路頭にまよわしめた政府——その政府におぬしらは哀願しようともくろんでおる
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
私のように官位を剥奪はくだつされるほどのことでなくても、勅勘ちょっかんの者は普通人と同じように生活していることはよろしくないとされるのはこの国ばかりのことでもありません。
源氏物語:12 須磨 (新字新仮名) / 紫式部(著)
兵部卿ひょうぶきょう親王は源氏の官位剥奪はくだつ時代に冷淡な態度をお見せになって、ただ世間の聞こえばかりをはばかって、御娘に対してもなんらの保護をお与えにならなかったことで
源氏物語:14 澪標 (新字新仮名) / 紫式部(著)
お国の模様がえが、家禄没収、族籍剥奪はくだつなどという手段でなされようとは考えたことも無かった。ずいぶん思いきった革新であっても、話としてのときには身にみなかったのだろう。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
離散という生活の剥奪はくだつに見舞われてしまったのだ。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「私はやはり源氏の君が犯した罪もないのに、官位を剥奪はくだつされているようなことは、われわれの上に報いてくることだろうと思います。どうしても本官に復させてやらねばなりません」
源氏物語:13 明石 (新字新仮名) / 紫式部(著)