前兆ぜんちょう)” の例文
「灰色ネズミがあんなにたくさん進軍しんぐんしているのは、」と、ガンのユクシが言いました。「なにかよくないことの前兆ぜんちょうだぞ。」
幸いにこういう奇禍きかを免れる事の出来たのもこれまたチベットへ入って奇禍を免れ安全に故郷へ帰って来られるという前兆ぜんちょうになったかも知れない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
天気てんきわる前兆ぜんちょうか、西にし夕焼ゆうやけけは、気味きみわるいほど、たけくるほのおのように渦巻うずまいてあかくなりました。
ちょうと怒濤 (新字新仮名) / 小川未明(著)
克彦はそのときの巨大な赤い月を、あの凶事きょうじ前兆ぜんちょうとして、いつまでも忘れることができなかった。
月と手袋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しかし、弟さまの忍熊皇子おしくまのおうじは、そんな悪い前兆ぜんちょうにもとんじゃくなしに、そのまま軍勢をおひきつれになり、海ばたまで押しかけて、待ちかまえていらっしゃいました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
あのようにも怖え、興奮した京子には、後年気違いになる前兆ぜんちょうが、まだまだいくらもあった筈だ。
春:――二つの連作―― (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それでも「ワルシ」と書いた事が、何か不吉な前兆ぜんちょうのように、頭にこびりついて離れなかった。
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
十一月二十七日は、朝からむしむしと暑苦あつくるしい日であった。空は重々ちょうちょうたる密雲におおわれて、遠くで雷鳴らいめいがいんいんとひびき、なんとなく大あらしの前兆ぜんちょうをつげる空もようである。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
「余り思いがけないんですもの。あなたが大病をなさる前兆ぜんちょうじゃありますまいか?」
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
つち空気くうきや水のいぶき、またはやみの中にうごめいてる、んだりはったりおよいだりしているちいさな生物いきものの、歌やさけびや音、または晴天せいてんや雨の前兆ぜんちょう、またはよる交響曲シンフォニーかぞえきれないほどの楽器がっきなど
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
だが、これを勝負しょうぶ前兆ぜんちょうとはみられない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
若し少しでもその前に前兆ぜんちょうらしいことがあったとすれば、それはこう言う話だけでしょう。なんでも彼岸前のある暮れがた、「ふ」の字軒の主人は半之丞と店の前の縁台えんだいに話していました。
温泉だより (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
なにか、恐ろしい前兆ぜんちょうのような気がしたからです。
黄金豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)