すなわち)” の例文
古語にいわく、遠不とおくおもんぱからざればすなわちかならず近憂ちかきうれいありと、故に間に遠近の差別なく其間をまもらず
巌流島 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
この年天保七年江戸は春の末より雨のみ多く、梅雨は長延ながびいて初秋に至るもなお晴れる日がすくなかった。すなわち天保凶作の歳である。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
掘るには木にて作りたるすきを用ふ、里言にこすきといふ、すなわち木鋤なり。(中略)掘たる雪は空地あきちの、人にさまたげなき処へ山のごとく積上る、これを里言に掘揚ほりあげといふ。
(新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
其方そのほう、中国表へ、先陣として出勢すべきの旨、仰せ出さる、すなわち、即刻御暇被下おいとまくださるもの也
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……其上君子おもからずんばすなわち威あらず義元事は不慮の為進退軽々しき心持候。
桶狭間合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
馬堤は毛馬塘なり、すなわち余が故園なり
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
港八九は成就じょうじゅいたり候得共そうらえども前度せんどことほか入口六ヶ敷候むずかしくそうろうに付増夫ましぶ入而いれて相支候得共あいささえそうらえども至而いたって難題至極ともうし此上は武士之道之心得にも御座候得そうらえば神明へ捧命ほうめい申処もうすところ誓言せいげんすなわち御見分のとおり本意ほんいとげ候事そうろうこと一日千秋の大悦たいえつ拙者せっしゃ本懐ほんかいいたり死後御推察くださるべくそうろう 不具ふぐ
海神に祈る (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
輿窓よそうヨリ来路ヲ回顧スレバすなわち島嶼皆烟雨えんう微茫びぼうノ間ニアリ。依依トシテ相送ル者ノ如シ。高城ノ駅ニ到レバすなわち灯既ニ点ズ。コノ夜雨。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
わたくしは偶然遠山雲如が『墨水四時雑詠』の序によって、晴潭は雲如と同庚どうこうであることを知った。すなわち文化七年庚午の生である。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
すなわち深川仲町には某楼があり、駒込追分には草津温泉があり、根岸には志保原伊香保の二亭があり、入谷には松源があり、向島秋葉神社境内には有馬温泉があり、水神には八百松があり
上野 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
曲曲回顧スレバ花幔かまん地ヲおおヒ恍トシテ路ナキカト疑フ。おしひらイテ進メバすなわち白雲ノ坌湧ふんようスルガ如ク、ようトシテ際涯ヲ見ズ。低回スルコトしばらクニシテ肌骨皆香シク、人ヲシテ蒼仙ニ化セシメントス。
向嶋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
元これ愛嬌商売なれば第一に世間に従つて行かねばならぬなり。お客に従はねばならぬなり。出先でさきの茶屋の女中に従はねばならぬなり。足を洗つて素人となる。すなわち旦那に従はねばならぬなり。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)