利腕ききうで)” の例文
と飛んで出た御家人崩れの勘弁勘次、苦もなく利腕ききうで取ってむんずと伏せる。味噌松は赤ん坊のような泣声を揚げた。彦兵衛は起き上って
その右の手には、早くも匕首あいくちが光っていた。が、与四郎は、軽捷な忠直卿にわけもなく利腕ききうでを取られて、そこに捻じ伏せられてしまった。
忠直卿行状記 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
弱音をあげようとするのを取っちめて、男のまげの先を握ったまま、三五兵衛はそれを畳へ抑えつけたが、ぐっと、その利腕ききうでの入墨をめくって
八寒道中 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
途端に早くも兵馬は、この者の利腕ききうでを取ろうとして、案外にもそれが、フワリとして手答えのないのに、ハッとしました。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それと同時に、かれの利腕ききうでを取ろうとした一人の手先はあっと云って倒れた。松蔵はふところに呑んでいた短刀をぬいて、相手の横鬢よこびんを斬り払ったのであった。
半七捕物帳:31 張子の虎 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
地には落さじとやうにあわふためき、油紙もて承けんとる、その利腕ききうでをやにはにとらへて直行は格子こうしの外へおしださんと為たり。彼はおされながら格子にすがりて差理無理しやりむり争ひ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
隣席の五十坂を越したと思う男が、年齢としの割には素晴らしい強力ごうりきで、弦吾の利腕ききうでをムズと押えた。
間諜座事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼は危険を感じて身をひねり、伸びて来た相手の利腕ききうでを掴んだ。その手は懐剣を持っていた。
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
不思議さのあまり呆然そこに佇んでいると、不意に背後から私の利腕ききうでをぐッと掴んだものがあります、おどろいて振顧ふりかえると見も知らない男が私の方を睨みつけながら、ぐいぐい腕を引張ります。
流転 (新字新仮名) / 山下利三郎(著)
「何しやがるんだ!」銭占屋が横合からむんずと万年屋の利腕ききうでを抑えた。
世間師 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
しかし今は組み打ちの白兵戦です。イエスはたちまち敵の利腕ききうでを取って
春樹はその背後に近づき、ちょっと突当るや、目にも止まらぬ早さで、ダイヤのピンを抜き取り、しっかと握ったままその手を外套のポケットに突込んだ、それと同時に、彼の利腕ききうではぐいと掴まれた。
梟の眼 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
その利腕ききうで取って、やにわに濠の中へほうり込んで、さっと走り出しました。あとで、仲間どもが天地のひっくり返るほどわめき出したのも聞捨てに——
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そして、無碍むげ利腕ききうでをねじあげようとするのを、お綱は振り払って、お十夜の影へサッと小太刀の光を投げた。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
間一髪千之はひらりと体をひねると、苅田の利腕ききうでを逆に取って捩上ねじあげ、腰車にかけて
海浜荘の殺人 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
声が出なくなった佐々は、博士のために遂に利腕ききうでを逆にとられて、床の上にお辞儀をしたような恰好になった。ヒイヒイ云っている彼の右耳からは、赤い血がタラタラと流れている様子だ。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
利腕ききうでにも利かない腕にも一本しかないから、思いがけなく持たせられたこの一物が、相当に荷厄介にはなるらしい。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
酒呑童子しゅてんどうじもかくやの形相ぎょうそうで、大きなくちびるへやい歯をかませた呂宋兵衛は、いきなり民部の利腕ききうでをひとふりふって、やッと一せいだんの上から大地へ投げつけた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
右の利腕ききうでを取られている金助は、この時ガーッと咽喉のどを鳴らして、米友の面上めがけて吐きかけようとしたから
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
お綱は利腕ききうでを取られ、万吉は万吉でそのえりがみをつかまれたまま、否応いやおうなくそこへ取り囲まれてきた。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それを心得た兵馬は逸早いちはやくその武家の利腕ききうでを抑えると、意外にもそれは女のように軟らかな手先であります。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
強く、孫兵衛の利腕ききうでをとって、いたいけな角兵衛獅子の姉弟ふたりを、かばうように左の手で後ろに寄せた。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
森啓之助は中央に立って、かれの利腕ききうでをねじ上げた。新吉は原士に襟がみをつかまれてすくんでいる。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれども、右の方の十手によって、被った笠が叩き落されて、その利腕ききうでを取られていたのです。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
バラバラと玄蕃を取り囲んだ徒士かち侍が、否応なく折重なって、両の利腕ききうでをグッと抑えとってしまった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、郁次郎が、そばの刀に手をのばすまに、東儀は駈けこんで、その利腕ききうでを、ぐいと捻じ上げた。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もとより、お十夜をえぐるにはわざが足らず、風をはらんだ袖うらが、空しく、ヒラ——と流れたのみ。途端にかいくぐった孫兵衛、その利腕ききうでをねじとッて、左手で女ののどをせめつける。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
俊基の装束の石帯せきたいをつかんで引き起すやいな、またすばやく、その利腕ききうでをねじ上げて
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おいッ、なぜ来ないかッ」と利腕ききうでをねじ上げた者がある。見ると、森啓之助だ。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
色を隠してさあらぬ様子、取られた利腕ききうでを預けたままで
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
枕元から立ちかける銀五郎の利腕ききうでをムズとじ上げて
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と一かつして、お綱の利腕ききうでをねじ上げてしまった。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)