判明はっきり)” の例文
二人は或る間隔を置いて、相手の短所を眺めなければならなかった。だから相手の長所も判明はっきりと理解する事が出来にくくなった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
足を狙うのが、朝顔を噛むようだ。爪さきが薄く白いというのか、もすそつますそが、瑠璃るり、青、あかだのという心か、その辺が判明はっきりいたしません。
半島一奇抄 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夜寝床へ入ってからも、あれが誰の子か永久にわかりそうもないのを、ひそかに歎きます。もっともそれが判明はっきりすると、却って恐ろしいことかも知れません。
二人の母親 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
それらの女の肉顔は何処どこう見たことすら判明はっきりしないが、ただ、美しい女がつところの湯気のような温かみが、かれの坐っているあたりの空気をしっとりとあぶらぐませ
幻影の都市 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
「それは無論よ。お父さんも申分ないと仰有っていますからね。けれども然ういう条件で帰って貰うんじゃありません。親は親、子は子です。そのぶん判明はっきりさせてからの話ですわ」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
しかしどの位が相当のところだか判明はっきりした目安の出てようはずはなかった。その上なるべく少ない方が彼の便宜であった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
が、かくきのこたしなむせいだろうと人は言った、まだ杢若に不思議なのは、日南ひなたでは、影形が薄ぼやけて、陰では、汚れたどろどろのきもの縞目しまめ判明はっきりする。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
女は女自身にあっても之等これらの凝視の世界が、果してどれだけまでが想像であるか、幻覚であるか、または一種の透視的な夢幻界を彷徨ほうこうしたものであるかという区別を判明はっきりすることができなかった。
香爐を盗む (新字新仮名) / 室生犀星(著)
彼らは常人より判明はっきりした頭をもって、普通の者より根気強く、しっかり考えるのだから彼らのまとめたものに間違はないはずだと、こういうことになりますが
中味と形式 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私も余程よっぽど寝苦しかったと見えます——先にお話しした二度めに目を覚ましますまで、ものの一時間とはなかったそうで——由紀の下階したからとおして見たのでは——余り判明はっきり見えるので
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
人類に対する慈愛の心を、硬くなりかけた彼からそそり得る点において。また漠然として散漫な人類を、比較的判明はっきりした一人の代表者に縮めてくれる点において。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
濡れても判明はっきりと白い、処々むらむらとが立って、雨の色が、花簪はなかんざし箱狭子はこせこ輪珠数わじゅずなどが落ちた形になって、人出の混雑を思わせる、仲見世の敷石にかかって、傍目わきめらないで、御堂みどうかたへ。
妖術 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼は眠い時に本を読む人が、眠気ねむけに抵抗する努力をいといながら、文字の意味を判明はっきり頭に入れようと試みるごとく、呑気のんきふところで決断の卵を温めている癖に、ただうま孵化かえらない事ばかり苦にしていた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)