切身きりみ)” の例文
吾輩が金田邸へ行くのは、招待こそ受けないが、決してかつお切身きりみをちょろまかしたり、眼鼻が顔の中心に痙攣的けいれんてきに密着しているちん君などと密談するためではない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
何でも、切餅きりもちが二、三十切れと、魚の切身きりみが七、八つ、小さい紙袋が三つ四つ、それから、赤い紙を貼った三銭か五銭かの羽子板はごいたが一枚、それだけがその中から出て来た。
見渡す処、死んだ魚の眼の色は濁りよどみそのうろこは青白くせてしまい、切身きりみの血の色は光沢つやもなくひえ切っているので、店頭の色彩が不快なばかりか如何いかにも貧弱に見えます。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
下女に云付又七がめししるちやなどへれて毎日々々もちひしとぞ彼の長助も此事をきゝしかば又七へも密かに告置つげおきおのれ隨分ずゐぶん心を付ると雖も大勢おほぜいにて爲る事なれば何時いつの間に入けるや知らざれども或時あるときひらめ切身きりみ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
臺所だいどころると、細君さいくん七輪しちりんあかくして、さかな切身きりみいてゐた。きよながもとこゞんで漬物つけものあらつてゐた。二人ふたりともくちかずにせつせと自分じぶんことつてゐる。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
まつたくね。これぢやだれだつて、つてけないわ。御肴おさかな切身きりみなんか、わたし東京とうきやうてからでも、もうばいになつてるんですもの」とつた。さかな切身きりみ値段ねだんになると小六ころくはうまつた無識むしきであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)