えん)” の例文
意趣遺恨のという狼藉ろうぜきではない、師のえんをそそぎ奉る遺弟のとむらい合戦だわ。武蔵っ、不愍ふびんだが、汝の首はわれわれが申しうけたぞ
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
えんに泣く民の一人にても存在すると云ふことは聖代の歴史の一大汚辱なりとして恐懼自戒措く能はざる人人である。此人達は天皇の御名の下に裁判権を行ふ。
公判 (新字旧仮名) / 平出修(著)
後世その人に代わりてえんをそそぐものもあり、あるいは碑を建て史を編み、もってその名をして不朽に伝えしむるものもありて、「天網恢々てんもうかいかいにして漏らさず」
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
ちょうこてを持って逃走し、アントウェルプ府に赴き、それから国境を越えようとする時に、一書をオランダ議会に送って、そのえんを訴えて脱獄の理由を弁明し
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
自分一人の責任でそう云う手段に出たのであったが、正直のところを云えば、妙子を犠牲にしても雪子のえんすすぐことにって雪子によく思われたいと云う底意が
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
試みに見るべし、有名なる英国の政治家チャールス・ヂルク氏は、誠に疑わしき艶罪えんざい(ある人の説く所にれば全く無根のえんなりともいう)を以て政治社会をしりぞけられたり。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ツイその数日前の或る新聞にも、「開国始末」でえんそそがれた井伊直弼いいなおすけの亡霊がお礼心に沼南夫人の孤閨こけい無聊ぶりょうを慰めに夜な夜な通うというようなくすぐったい記事が載っていた。
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
そこにかれこれ五六年もいましたろう。やがて、えんすすぐ事が出来たおかげでまた召還され、中書令ちゅうしょれいになり、燕国公えんこくこうに封ぜられましたが、その時はもういい年だったかと思います。
黄粱夢 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
幸い私は、その間の事情をよく知って居りますので、差出さしでがましいとは存じましたが、皆様の疑惑を説き、志津子さんのえんをそそぐために、最後の一言を添えさして頂き度いと存じます。
後年えんによってしりぞけられたが忽ち許されて大目附に任じ、さらに川路聖謨かわじせいばくと共に長崎に行って魯使ろしと会し通商問題で談判をしたり、四角八面に切って廻した幕末における名士だったので
大鵬のゆくえ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
宍戸侯ししどこうのためにえんをそそぐという意味からも京都をさして国を離れて来たことを書き添え、なお、一同が西上の心事は尊攘の精神にほかならないことをこまごまと言いあらわしてあったという。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
やがて裁判長は被告に向かいて二、三の訊問ありけるのち、弁護士は渠のえんすすがんために、滔々とうとう数千言をつらねて、ほとんど余すところあらざりき。裁判長は事実を隠蔽いんぺいせざらんように白糸をさとせり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ちん一代の過ちであった。しかしえんを恨んで深く郷藪きょうそうに隠れた彼、にわかに命を奉じるであろうか」
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
忠胆義肝匹儔ひつちゆう稀なり 誰か知らん奴隷それ名流なるを 蕩郎とうろう枉げて贈る同心のむすび 嬌客俄に怨首讎えんしゆしゆうとなる 刀下えんを呑んで空しく死を待つ 獄中の計うれいを消すべき無し 法場し諸人の救ひを
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
「いや、逃げるといったのは、わしが悪い。えんそそぐのだ、潔白を立てるのだ。——それには」
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし、師弟の情誼じょうぎを口にし、武道のえんそそごうという考えなれば、なぜ、伝七郎殿の如く、また清十郎殿の如く、堂々と、この武蔵へすじみち立てて正当な試合に及ばれぬか
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ま、ま。そう怒らないで。——まったく、後では自分も申し訳なく思っていた。それにつけても憎ッくい奴は、足下の讒訴ざんそを云いふらした男じゃ。その者の首をねて、陣中に高札し、足下のえん
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)