おおや)” の例文
鍋久でも世間の手前、この一件を余りおおやけ沙汰にしたくないので、役人らにもよろしく頼んで、いっさいを内分に納めることにした。
半七捕物帳:49 大阪屋花鳥 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
これはおおやけにこそ明言しないが、向うでも腹の底で正式に認めるし、僕も冥々めいめいのうちに彼女から僕の権利として要求していた事実である。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分の悪い事をおおやけにするは余り面白くもないが、正味しょうみを言わねば事実談にならぬから、ト通り幼少以来の飲酒の歴史を語りましょう。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
もしそれだけが間接にあらゆる者の収入から控除されるならば、彼れはおおやけの負担に対するその正当な分前を支払うことを避け得ないのである。
警察の保護を受けるのはいいが、そうなると、あの黄金メダルのこともおおやけに知られてしまう。すると戸倉老人の心に反することになりそうだ。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そんなことをおおやけにするのはいかにもくやしいかもしれない。しかし、そうすれば一度だけみじめな思いをして、それですぐに済んでしまうんだ。
(新字新仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
一女性の問題に心をうばわれておおやけの問題を忘れることは、かれにとっては、人間としての良心の問題であり、少なくとも自尊心の問題だったのである。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
これらの法律は、おおやけの舞踊手や歌手の妻、またはその妻の姦淫によって生活するが如き下等な男の妻に関するものではない、と記されているが、これは2
自分は専門でないので確かなことは言えぬが、和漢両朝の交通が始まった頃には、もう嘗という収穫後の祭は、漢土には少なくともおおやけに行われていなかったらしい。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そうすると、今までは多少遠慮の気味でこすりつけていた牛が、もうおおやけに許された気になって、全身をあげて、茂太郎にこすりついて来たそのなつっこさといったらありません。
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「大変なことがあるんだ。これがおおやけになったら熊本さんの一生は台なしだよ。君はあんなにして特に親しいから、君からいっぺん忠告してやれよ」と親切にお節介せっかいを焼いてくれます。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
践祚の告辞のようなおおやけの言葉の中にも、わが人民の幸福のためにする、すべての努力に当り、常にわが妻の在ってわれを輔けることを思い、力づけられる、というようなことをいった。
この頃の皇太子殿下 (新字新仮名) / 小泉信三(著)
そしてその結果が一通りわかって来たので、一八六五年にブリュンの博物学会の会合の席で、これを発表し、その翌年にはこの学会の記要に「雑種植物の研究」という題で、論文をおおやけにしました。
グレゴール・メンデル (新字新仮名) / 石原純(著)
まじめに訴えるということは、おおやけの義務である
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
これが好評で、紫紅君は明くる三十九年の秋に『七つ桔梗ききょう』という史劇集をおおやけにした。松葉君はこの年の四月、演劇研究のために洋行した。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
だから順序からいうと、第二巻が最初におおやけにされた訳になる。そうして去年五月発行とある新刊の方は、かえって第一巻に相当する上代じょうだい以後の歴史であった。
フランスのユーゴーが「哀史レ・ミゼラブル」をおおやけにしたのは、その五年ほど以前であります。英のラスキンが美術論から、社会改良の理想に進んで行ったのも、この時代のことであります。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この信仰がはやく少数の氏族に限られて、おおやけには承認せられなくなったらしいが、沖縄諸島ではなお久しい後まで、是が協同生活の根幹をなし、ニルヤの交通をもって職掌しょくしょうとした人々が
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
殺されたのは、「松」こと椎名咲松しいなさきまつという男であって、これは団員となっているが、実は其の筋の密偵みっていをつとめていた人物だった。椎名咲松の殺されたことはおおやけに対しての挑戦と見られた。
キド効果 (新字新仮名) / 海野十三(著)
実は、ぼくは、世間できわめて重大だと考えているおおやけの問題、たとえば現在でいうと、国家の非常時というような問題に対して、恋愛というものが、その本人にとって、実際どのぐらいの比重を
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
こう解釈すると鎌倉にいた時の僕は、あれほど単純な彼女をして、僕の前に高木の二字をおおやけにする勇気を失わしめたほど、不合理に機嫌を悪くふるまったのだろう。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
最近の候文そうろうぶん時代まで、守りつづけていたおおやけの過失のためであった。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
五六ページ繰って行くうちに、ふと教授の名前が眼にとまったので、また新らしい著書でもおおやけにしたのか知らんと思いながら読んで見ると、意外にもそれが永眠えいみんの報道であった。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
おおやけの大事にしか関与なされなかったのである。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
芸術家としての彼はおのれにあつき作品を自然の気乗りで作り上げようとするに反して、職業家としての彼は評判のよきもの、売高うれだかの多いものをおおやけにしなくてはならぬからである。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それでこの二人の間には、号外発行の当日以後、今夜小六がそれを云い出したまでは、おおやけには天下を動かしつつある問題も、格別の興味をもって迎えられていなかったのである。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
動くべき社会をわが力にて動かすが道也先生の天職である。高く、おおいなる、おおやけなる、あるもののかたに一歩なりとも動かすが道也先生の使命である。道也先生はその他を知らぬ。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
代助は現今の文学者のおおやけにする創作のうちにも、寺尾の翻訳と同じ意味のものが沢山あるだろうと考えて、寺尾の矛盾を可笑おかしく思った。けれども面倒だから、口へは出さなかった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)