もた)” の例文
兵卒らがその死人をき出して、うしろの壁にもたせかけると、冬瓜とうがのような大きい玉がその懐中から転げ出したので、驚いて更に検査すると
冬でも着物のまま壁にもたれて坐睡ざすいするだけだと云った。侍者じしゃをしていた頃などは、老師の犢鼻褌ふんどしまで洗わせられたと云った。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
御本家の御女中方が灰色の麻袋を首に掛けて、桑の嫩芽しんめを摘みに御出おいでなさる時も、奥様は長火鉢にもたれて、東京の新狂言の御噂さをなさいました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
一般多くは、心の支柱を、柴田にもたせて見、羽柴に寄せて見、毛利に寄せて見、上杉に寄せて見、徳川に寄せて見、北条に寄せて見、或いは織田遺族の信孝や信雄などに付託ふたくして
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たつた一人で過す多くの夜を、その窓にもたれて、彼は幾度いくたびか/\自分の仕事、自分の将来についていろ/\に思ひをはしらせた。そんな時、いつも彼の心のうちには抑へきれない憧憬しようけいが波うつてゐた。
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
というのは、柱にもたれての御独語おひとりごとでした。浮気な歓楽が奥様への置土産は、たったこの一語ひとことです。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
このあんあづかるやうになつてから、もう二ねんになるが、まだ本式ほんしきとこべて、らくあしばしてことはないとつた。ふゆでも着物きものまゝかべもたれて坐睡ざすゐするだけだとつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
自分は口惜くやしくなった。なぜこんな猿の真似をするように零落おちぶれたのかと思った。倒れそうになる身体からだを、できるだけ前の方にのめらして、梯子にもたれるだけ倚れて考えた。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
空谷子は小さな角火鉢かくひばちもたれて、真鍮しんちゅう火箸ひばしで灰の上へ、しきりに何か書いていた。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
床を敷いて寝たものだろうか、ただしは着のみ着のままで、ごろりと横になるか、または昨夕ゆうべの通り柱へもたれて夜を明そうか。ごろ寝は寒い、柱へかかるのは苦しい。どうかして布団ふとんを敷きたい。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)