仲町なかちょう)” の例文
其の頃評判の遊女屋山口七郎右衞門の仮宅は深川仲町なかちょうで、大した繁昌でございます。仮宅の時にはい花魁を買えることが有りまする。
買物はいけはたへ出て、仲町なかちょうへ廻ってするのです。その仲町へ曲る辺に大きな玉子屋があって、そこの品がよいというので、いつも買います。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
柳はくらく花は明るきなかに、仲町なかちょう土橋どばし、表やぐらあたりにはかなり大きな楼も軒をならべて、くだっては裏やぐら、すそつぎ、直助など——。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
供の者は、番頭の平七と、漁師の伊太郎と、芸妓げいしゃが三人、年増のおさの、少し若いお国、一番若いお舟、いずれも仲町なかちょうの良い顔、それに幇間たいこもち理八りはち、これが全部です。
中形の浴衣に糸巻崩いとまきくず昼夜帯ちゅうやおび引掛ひっかけという様子なり物言いなり仲町なかちょうはおりと思う人はあるかも知れぬが、ついぞこの間までちょうにいなすった華魁衆おいらんしゅうとはどうしてどうして気がつくものか。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それから松源まつげん雁鍋がんなべのある広小路、狭いにぎやかな仲町なかちょうを通って、湯島天神の社内に這入はいって、陰気な臭橘寺からたちでらの角を曲がって帰る。しかし仲町を右へ折れて、無縁坂から帰ることもある。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
もとは仲町なかちょうの羽織芸者で、吉兵衛と好きあって一緒になった仲だが、なんにしても吉兵衛の甲斐性かいしょうないのと陰気くさいのにすっかり愛想あいそをつかし、急にむかしの生活が恋しくなってきた。
顎十郎捕物帳:18 永代経 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
そなたはこのごろ仲町なかちょうの甲州屋様の御本宅の仕事が済むとすぐに根岸の御別荘のお茶席の方へ廻らせられて居るではないか、良人うちのも遊ぶは随分好きで汝たちの先に立って騒ぐは毎々なれど
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
前夜画会がかいくずれから、京伝きょうでん蜀山しょくさん、それに燕十えんじゅうの四人で、深川仲町なかちょう松江まつえで飲んだ酒がめ切れず、二日酔の頭痛が、やたらに頭を重くするところから、おつねに附けさせた迎い酒の一本を
歌麿懺悔:江戸名人伝 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
お蔦 ええ、仲町なかちょうの角から、(軽く合掌す)手を合せて。
湯島の境内 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
王子の在へ行って聞きゃアすぐに分るてえますから、実は其処そこいけはた仲町なかちょう光明堂こうみょうどうという筆屋の隠居所だそうで、其家そこにおいでなさる方へ上げればいと云付いいつかって
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
池の端仲町なかちょうの江島屋の門口に立った三人は
下谷したやがあるから上野があって、側に仲町なかちょうがありまして上中下じょうちゅうげそろってる。
闇夜の梅 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)