不束者ふつつかもの)” の例文
女は韻の深い声で、低頭しながら云った、「不束者ふつつかもののわたくし、お慈悲に甘えてお世話さまになりまする、どうぞよろしゅう……」
嫁取り二代記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「何ぞ不調法でもいたしましたか、誠に行届きません不束者ふつつかもの、お気に入りませぬ事がございましたら、そうおっしゃって、どうぞ御勘弁下さいまし。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
末娘のきよ子が、年が改まると二十はたちになる。不束者ふつつかものだが、おひとを見込んでの相談がある。どうか聟になってやってはくれまいか。そういうのであった。
(新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「手前滝沢清左衛門せいざえもん不束者ふつつかものにござりまするが何卒なにとぞ今後お見知り置かれ、別してご懇意にあずかりたく……」
戯作者 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
起居たちいもしとやかで、挨拶あいさつ沈着おちついた様子のよい子だから、そなたたちも無作法なことをして不束者ふつつかもの、田舎者と笑われぬようによく気をつけるがよいと言われた。
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
「番頭と申すのは名ばかりで、まだ昨日きのうきょうの不束者ふつつかものでございます。この後も何分よろしく願います」
半七捕物帳:50 正雪の絵馬 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
是非ぜひ一度いちど目通めどおりをねがわずにはられなくなりました、一向いっこう何事なにごとわきまえぬ不束者ふつつかものでございますが、これからは末長すえながくおおしえをけさせていただきとうぞんじまする……。
ははは、いや、どうにもならんというよりは、あんな不束者ふつつかものがお眼に留まって、お側へとのお声がかかり、おれはほんとうに光栄だと思っている。ありがたいと思っている。
稲生播磨守 (新字新仮名) / 林不忘(著)
狭山さん、私は今更お礼を言ふと云ふのも、異な者だけれど、貴方は長い月日の間、私のやうなこんな不束者ふつつかもの我儘者わがままものを、能くも愛相あいそを尽かさずに、深切に、世話をして下すつた。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
不束者ふつつかものでございますが、お世話になります以上は、一生をかけたいと存じます。それにつきましては、一通りの御殿勤めも致しとうござりますゆえ、一二年、御部屋様付にて、見習を
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
「わたくしのような不束者ふつつかものを本当にもしお目かけ下さるならば、愛のしるしに、いえ、あの誓いの御しるしに、わたくしのわがままおきき届け願いとうござります。そしたらあの……」
れ参りましたが、不束者ふつつかもの、わざと控えさせておきました」
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
不束者ふつつかものでございますけれど……。」
幻の彼方 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
然しその唇は感動を耐えるために痙攣ひきつっていた、「わたくしこそ、不束者ふつつかもので、色々と旦那さまの足手まといにばかりなっておりました、どうぞおゆるしあそばして……」
松風の門 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「はい、妾こそ、どうぞよろしく……あの田舎者で……不束者ふつつかもので……」浜路ロクロク物さえ云えない。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
なにしろ竜宮界りゅうぐうかい初上はつのぼり、何一なにひとわきまえてもいない不束者ふつつかもののことでございますから、随分ずいぶんつまらぬこと申上もうしあげ、あちらではさぞ笑止しょうし思召おぼしめされたことでございましたろう。
「妹もなにぶん不束者ふつつかものでございますから、この末ともによろしくお願い申します」
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
『納戸頭、奥田孫太夫と申す不束者ふつつかものにござります』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あの、わたくしに、このような不束者ふつつかもののわたくしにでもお目かけ下さるお方がござりますなら、早くその方にめぐり合うよう、日光様へ願懸けに行っておじゃと、母様からのお言いつけでござりましたゆえ、じいやと二人して参ったのでござります」
「これは千之助の姉で小房こふさと申す不束者ふつつかもの、お見知り置き願い度い」
おもかげ抄 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)