不折ふせつ)” の例文
ある日、頼みたい用事があって本郷湯島から谷町たにまちをへだてたところに住む中村不折ふせつさんの以前の住まいをたずねたことがありました。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
不折ふせつ油画あぶらえにありそうな女だなど考えながら博物館の横手大猷院尊前だいゆういんそんぜんと刻した石燈籠の並んだ処を通って行くと下り坂になった。
根岸庵を訪う記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
不折ふせつは古碑の文字古法帖の文字などのあたり示して※※吉などの字の必ずしも入にあらず必ずしも士にあらざる事を説明せり。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
日本人では古い所で中林不折ふせつ鹿子木孟郎かのこぎまうらう諸君のが一枚づつ、近頃で安井の絵が三枚いづれも目に着く。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
今朝与謝野氏来訪、不折ふせつ書林太郎君墓銘数葉持参致し、誠によき出来に候。礼金は先づ筆墨料として×円ばかり投じては奈何いかんとの事に候。三十余枚も書き試みたる趣に候。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
私は始て気が附いて、承塵なげしに貼り出してある余興の目録を見た。不折ふせつまがいの奇抜な字で、余興と題した次に、赤穂義士討入と書いて、その下に辟邪軒秋水へきじゃけんしゅうすいと注してある。
余興 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
漱石氏と前後して浅井黙語もくご、中村不折ふせつ、相島虚吼きょこう、森円月えんげつ、直木燕洋えんようその他の諸君が洋行して送ってくれる一枚の絵葉書をも、居士は深い興味の眼を以て眺め入るのであった。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
思ふに畫と云ふ事に初心しよしんな彼は當時繪畫に於ける寫生の必要を不折ふせつなどから聞いて、それを一草一花の上にも實行しやうとくはだてながら、彼が俳句の上で既に悟入した同一方法を
子規の画 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
文展で評判の好かつた不折ふせつの「陶器つくり」の油繪、三千里の行脚あんぎやして此處にも滯留した碧梧桐「花林檎」の額、子規、碧、虚の短册、與謝野夫妻、竹柏園社中の短册など見た。
熊の足跡 (旧字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
文展ぶんてんで評判の好かった不折ふせつの「陶器つくり」の油絵、三千里の行脚あんぎゃして此処にも滞留たいりゅうした碧梧桐「花林檎」の額、子規、碧、虚の短冊、与謝野夫妻、竹柏園社中の短冊など見た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
不折ふせつの門人だが、金沢へ来てから、日本画特に南画なんがに趣味をもって、筆致ひっちの雄はなくも、軽快な色と頭とで、十分好きになれる絵を描いていた。油絵の方は月並つきなみだったが、こっちの方はよかった。
九谷焼 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
この洋画家は誰でもない、中村不折ふせつである。
そのほか賀知章がちしょうの画を見たことがあるが、それも尋常じんじょうでないといふことで不折ふせつめて居つた。けれども人物画は少し劣るかと思はれる。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
もう一つの子規自筆の記念品は、子規の家から中村不折ふせつの家に行く道筋を自分に教えるために描いてくれた地図である。
子規自筆の根岸地図 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
思うに画と云う事に初心しょしんな彼は当時絵画における写生の必要を不折ふせつなどから聞いて、それを一草一花の上にも実行しようとくわだてながら、彼が俳句の上ですでに悟入した同一方法を
子規の画 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
額を中村不折ふせつに書いてもらったのですが、賀古氏の方は簡単でも門がありますから、すぐ掛けられましたけれども、森の方には何もないので、いつまでも座敷の隅に置いたままになっていました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
浅井ちゅう氏の紹介で中村不折ふせつ君が『小日本』に入社。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
不折ふせつの書9・3(夕)
雑誌『目不酔草めざましぐさ』の表紙模様不折ふせつの意匠に成る。面白し。ただし何にでも梅の花や桜の花をくつつけるは不折の癖と知るべし。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
子規の家から不折ふせつ氏の家へ行く道筋を画いて教えてくれたものが唯一の形見として私の手許に残っている。
子規の追憶 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
不折ふせつ、我がために日本画の中につきて巧拙を比較し、西洋画の中につきて巧拙を比較し、日本画と西洋画と個々別々に説く。我、わずかに悟る所あり。
病牀譫語 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
伏見人形に思い出す事多く、祭り日ののぼり立並ぶ景色に松蕈まつたけ添えて画きし不折ふせつの筆など胸に浮びぬ。山科やましなを過ぎて竹藪ばかりの里に入る。左手の小高き岡の向うに大石内蔵助くらのすけの住家今に残れる由。
東上記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ある時不折ふせつの話に、一つの草や二つ三つの花などを画いて絵にするには実物より大きい位に画かなくては引き立たぬ、といふ事を聞いて嬉しくてたまらなかつた。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
先ず第一に表紙の図案が綺麗で目新しく、俳味があってしかも古臭くないものであった。不折ふせつ黙語もくご外面とのも諸画伯の挿画や裏絵がまたそれぞれに顕著な個性のある新鮮な活気のあるものであった。
明治三十二年頃 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
○二、三年前に不折ふせつが使い古しの絵具をもらって、寝て居りながら枕元にある活花盆栽などの写生ということを始めてから、この写生が面白くて堪らないようになった。
病牀苦語 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
紅塵万丈こうじんばんじょうの中この一小閑地を残して荒涼たる山間の趣を留む、錙銖ししゅを争ふ文明開化なる者に疑ひなき能はざるなり。不折ふせつが画く所、未来の神田川、また余輩と感を同じうせし者あるに因るか。
四百年後の東京 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
座敷の掛額は不折ふせつ筆の水彩画、富士五合目の景なり。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)