不取敢とりあえず)” の例文
甥のことを頼んで置いて、自分の家へ引返してから、三吉は不取敢とりあえず正太へてて書いた。その時は姪のお延と二人ぎりであった。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
かく相手あいてなしに妊娠にんしんしないことはよくわかってりますので、不取敢とりあえずわたくし念力ねんりきをこめて、あの若者わかもの三崎みさきほうせることにいたしました……。
過日御示おしめし被下くだされそうろう貴著瘠我慢中やせがまんちゅう事実じじつ相違之廉そういのかどならぴ小生之しょうせいの所見しょけんもあらば云々との御意ぎょい致拝承はいしょういたしそうろう。昨今別而べっして多忙たぼうつきいずれ其中そのうち愚見ぐけん可申述もうしのぶべくそうろうまず不取敢とりあえず回音かいおん如此かくのごとくに候也。
ゆえに不取敢とりあえずその図を先きに出しその文章を後廻しにする事にして断然実行に移す事となり、まずその書名を日本植物志図篇と定めた。これは日本植物志の図の部の意味である。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
恩を着せるようにとられても厭ですが、自分は君の短篇集をちょっとのぞいてみて、安心していいものがあるように思われましたから、気も軽くなって不取敢とりあえずお礼を差し上げたのです。
風の便り (新字新仮名) / 太宰治(著)
「や」の字の説明はまだ足りぬが、先ず上陳の如く、切字として、文章の一段落をなし、かつ文字の節略を為すという事が、不取敢とりあえずここに説明して置くべき二つの大きな働きであろうと思う。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
返事と、指図と、受取ろう、をほとんど三人に同時に言われて、片手に掴んだ蝙蝠傘こうもりがさを、くるりと一ツ持直したのを、きょとんとしてみまわしたが、まかり違うと殺しそうな、危険けんのんな方へまず不取敢とりあえず
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
取るものも不取敢とりあえず大急ぎで両国りょうごく駅から銚子ちょうし行の列車に乗り込んだ。
花束の虫 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
先ずは不取敢とりあえず昨日の御詫旁々かたがた斯如かくのごとくに御座候
恐ろしき錯誤 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
まずは不取敢とりあえず御都合御伺いまで。敬具
不取敢とりあえず、相川は椅子を離れた。高く薄暗い灰色の壁に添うて、用事ありげな人々と摩違すれちがいながら、長い階段を下りて行った。
並木 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「冠省。ただいま原稿拝受。何かのお間違いでございましょう。当社ではおたのみした記憶これ無く、不取敢とりあえず、別封にて御返送、お受取願い上ます。『英雄文学』編輯部、R。」「謹賀新春。」
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
病院へ着く前に最早あの厳重な門が閉されることを思って、入ることが出来るだろうかとは思ったが、不取敢とりあえず出掛けた。追分おいわけまで車で急がせて、そこで私は電車に移った。
芽生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
不取敢とりあえず、短い葉書を。不一。
風の便り (新字新仮名) / 太宰治(著)
不取敢とりあえず、森彦、宗蔵の二人の兄に妻を引合せて行きたいと思った。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その日、正太は種々な感慨にふけった。不取敢とりあえず叔父へ宛てて、自分もまた男である、素志を貫かずには置かない、という意味を葉書に認めた。仕事をそこそこにして、横手の格子口から塩瀬の店を出た。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
不取敢とりあえず、彼女は嫁の豊世へてて書いた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
不取敢とりあえず手紙を出した。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)