一構ひとかまえ)” の例文
場所柄からこれは植木屋かとも思われて、摺鉢すりばちを伏せた栗の門柱に引違いの戸を建て、新樹の茂りに家の屋根も外からは見えない奥深い一構ひとかまえがある。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
この煉瓦の塀をめぐらした一構ひとかまえは病院であった。そうして中尉の妻君はこの病院の一室に寝ていたのである。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その事が後に分ります。……この一構ひとかまえは、村の庄屋で。……端近へは姿も見えぬ、奥深い床の間と、あの砂浜の井戸端と、花は別れて咲きました。が、いずれ菖蒲あやめ杜若かきつばた
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一構ひとかまえの百姓家は牧場になっていた。牛の牧場なんてそれまで見た事もない私だった。
一構ひとかまえしりがいつくる窓のはな 兆
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
わたくしはかつてそれらの中の一構ひとかまえが、有名な料理屋田川屋の跡だとかいうはなしを聞いたことがあった。『たけくらべ』に描かれている竜華寺りゅうげじという寺。
里の今昔 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
これが那古井なこいの地勢である。温泉場は岡のふもとを出来るだけがけへさしかけて、そばの景色を半分庭へ囲い込んだ一構ひとかまえであるから、前面は二階でも、後ろは平屋ひらやになる。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
はた一つ前途ゆくてを仕切って、縦に幅広く水気が立って、小高いいしずえ朦朧もうろうと上に浮かしたのは、森の下闇したやみで、靄が余所よそよりも判然はっきりと濃くかかったせいで、鶴谷が別宅のその黒門の一構ひとかまえ
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
待乳山まっちやまを背にして今戸橋いまどばしのたもと、竹屋の渡しを、山谷堀さんやぼりをへだてたとなりにして、墨堤ぼくてい言問ことといを、三囲みめぐり神社の鳥居の頭を、向岸に見わたす広い一構ひとかまえが、評判の旗亭きてい有明楼であった。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
本式の橋が去年の出水でみずで押し流されたまままだ出来上らないのを、老人はさも会社の怠慢ででもあるようにののしった後で、海へ注ぐ河の出口に、新らしく作られた一構ひとかまえの家をして
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
白山のうちを出て、入費のかからない点、屈竟くっきょうばかりでなく、間近な遊山ゆさんといってもいい、植物園へ行って、あれから戸崎町の有名な豆府地蔵とうふじぞうへ参ろうと、御殿町ごてんまちへ上ると、樹林一構ひとかまえ
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
三丁ほどのぼると、向うに白壁の一構ひとかまえが見える。蜜柑みかんのなかの住居すまいだなと思う。道は間もなく二筋に切れる。白壁を横に見て左りへ折れる時、振り返ったら、下から赤い腰巻こしまきをした娘があがってくる。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこは砂浜から一間の高さに、石垣を規則正しく積み上げた一構ひとかまえで、庭から浜へじかに通えるためでしょう、石垣のはじには階段が筋違すじかいに庭先まできざみ上げてありました。私はその石段を上りました。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
格子先こうしさき電鈴ベルに手が届かないくらいの一構ひとかまえであった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)