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ポツケツト
私は
何氣なく
衣袋を
探つて、
双眼鏡を
取出し、
度を
合せて
猶ほよく
其甲板の
工合を
見やうとする、
丁度此時先方の
船でも、
一個の
船員らしい
男が
渇の
止まると
共に
次には
飢の
苦、あゝ
此樣な
事と
知つたら、
昨夜海中に
飛込む
時に、「ビスケツト」の
一鑵位いは
衣袋にして
來るのだつたにと、
今更悔んでも
仕方がない
喫烟室へ
行くも
面倒なり、
少し
船の
規則の
違反ではあるが、
此室で
葉卷でも
燻らさうと
思つて
洋服の
衣袋を
探りて
見たが一
本も
無い、
不圖思ひ
出したのは
先刻ネープルス
港を
出發のみぎり
「
御金は」と云つた。見ると、
間にはない。三四郎は又
衣嚢を
探つた。
中から
手摺のした札を
攫み
出した。女は手を
出さない。