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しやうや
碧潭の
氣一脈、
蘭の
香を
吹きて、
床しき
羅の
影の
身に
沁むと
覺えしは、
年經る
庄屋の
森を
出でて、
背後なる
岨道を
通る
人の、ふと
彳みて
見越したんなる。
お
葬式をしたのは五
年ばかり
前で、お
正月もまだ
寒い
時分でした。
松戸の
陣前にゐる
田村といふ百
姓家の
人がお
葬式をしてくれたんで
御在ますが……。
其外の百
姓家とても
數える
計り、
物を
商ふ
家も
準じて
幾軒もない
寂寞たる
溪間! この
溪間が
雨雲に
閉されて
見る
物悉く
光を
失ふた
時の
光景を
想像し
給へ。