婦人をんな)” の例文
今日こんにちは、」と、こゑけたが、フト引戻ひきもどさるゝやうにしてのぞいてた、心着こゝろづくと、自分じぶん挨拶あいさつしたつもりの婦人をんなはこのひとではない。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
折角柔かい乳房を持ちながら、男のやうな硬い考へ方をする婦人をんながある。正直な農夫ひやくしやうめ、そんなのを見たら、どんなに言ふだらう。
そは婦人をんなつゝしみに於ては、サールディニアのバルバジアさへ、わがかの女を殘して去りしバルバジアよりはるかに上にあればなり 九四—九六
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
定めし、文平は婦人をんな子供こどもと見て思ひあなどつて、自分独りが男ででも有るかのやうに、可厭いや容子ようすを売つて居ることであらう。さぞ
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
いざといふ場合にると、基督の精神も何も有つたもので無い、婦人をんなの愚痴にかへつて、昨今世間に流行はやつてゐる煩悶に陥る。
未亡人と人道問題 (新字旧仮名) / 二葉亭四迷(著)
畢竟つまり自由結婚をさせたくても婦人をんなの交際する範囲には立派な理想の男子が入つて来ないから困ると、常/\仰せられた。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
みつともな婦人をんなといふものは創造のうるはしい顏の汚點だと見なします。でも殿方とのがたにはたゞ力と勇武だけをおそなへになれば結構ですわ。その座右の銘としては——狩獵、射撃、戰ですわ。
女と輕侮あなどり申し伏んとすれども假令たとへ婦人をんななりともちく一申立己れが罪迄も明白に白状はくじやうするを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
婦人をんなはかなしとおももひたえて、松野まつの忠節ちうせつこゝろより、われ大事だいじもふあまりに樣々さま/″\苦勞くらう心痛しんつう大方おほかたならぬこゝろざしるものから、それすらそらふくかぜきて、みゝにだにめんとせざりし
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
開きつ「婦人をんななんてものは、く思想の浅薄で、感情の脆弱ぜいじやくなものだからナ、少こし気概でもあつて、貧乏して居る独身者でも見ると、きに同情を寄せるんだ、実にクダらんものだからナ」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
杏多き所にて、ジヤルルック君一風呂敷ひとふろしき買ひ来りしかど、余はエルサレムに、杏にてられたれば食はず。ほとり近く泉あり。村の婦人をんな甕を頭に乗せて来り汲む。或はこゝにて洗濯をなすあり。
やさしい婦人をんなのうたごゑもきこえはしない。
定本青猫:01 定本青猫 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
(いゝえたれりはしませんよ。)とましてふ、婦人をんな何時いつにか衣服きものいで全身ぜんしん練絹ねりぎぬのやうにあらはしてたのぢや。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
婦人をんな蹂躙ふみにじつたり、置いてきぼりにしたりして、それであとから後から恋女こひをんなの出来るなぞも、多分こんな理由わけからかも知れない。
『そいつは妙だ。』と銀之助は笑つて、『余程奥様といふ人は変つた婦人をんなと見えるね。』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
皆な新橋辺しんばしあたりのぢやありませんか——婦人をんな矢張やつぱり日本風の温柔おとなしいのがいなんて申してネ、自分が以前さかんに西洋風をとなへたことなど忘れて仕舞つて私にまで斯様こんな丸髷まるまげなどはせるんですもの
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
井のかたはらなる壁に基督きりすとサマリヤの婦人をんなに語り玉ふ小さき画額を掲ぐ。
わしはその前刻さつきからなんとなくこの婦人をんな畏敬ゐけいねんしやうじてぜんあくか、みち命令めいれいされるやうに心得こゝろえたから、いはるゝままに草履ざうり穿いた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
鋏は色恋や愛国婦人会などと一緒に、婦人をんな玩具おもちやとして発明せられたものだから、それを使ふのに誰に遠慮はない筈だ。
夫人には、日頃頼りにする仏蘭西フランス語の教師があつた。B夫人といふ西洋の婦人をんなだ。
灯火 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「馬鹿言へ、高が一人の婦人をんなぢやないか、其様そんなことで親の権力が何処どこる——それに大洞、吾輩は今日、実にしからんことを耳に入れたぞ」満々たる大盃だいコップ取り上げて、グウーツとばかり傾けたり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
餅菓子店もちぐわしやみせにツンとましてる婦人をんななり。生娘きむすめそでたれいてか雉子きじこゑで、ケンもほろゝの無愛嬌者ぶあいけうもの其癖そのくせあまいから不思議ふしぎだとさ。
神楽坂七不思議 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
画家ゑかきといふものは自分の「参考」のためには、若い婦人をんな裸体はだかにする事さへ平気なのだから、他人様ひとさまの土蔵をけさす事位は何とも思つてらない。
やがておりうがしなやかにまがつて、をとこれると、むねのあたりにつて卷煙草まきたばこは、こゝろするともなく、はなれて、婦人をんなわたつた。
三尺角拾遺:(木精) (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「道理で、ひどく不味いと思ひました。」と、ビスマルクは独言ひとりごとのやうに言つて、英吉利生れの婦人をんなでも見るやうに、馬鹿にした眼つきでその酒壜を見た。
なにわすてて、狂氣きやうきごとく、その音信おとづれてくと、おりうちやう爾時そのとき……。あはれ、草木くさきも、婦人をんなも、靈魂たましひ姿すがたがあるのか。
三尺角拾遺:(木精) (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
野崎氏はいやうにはからつた。富豪かねもちあと金高きんだかを聞いて、自分の胸算用より少し出し過ぎたなと思つた。ちやう婦人をんな客が百貨店デパートメントストア帰途かへりにいつも感じるやうに……。
其時そのとき小犬こいぬほどな鼠色ねづみいろ小坊主こばうずが、ちよこ/\とやつてて、啊呀あなやおもふと、がけからよこちゆうをひよいと、背後うしろから婦人をんな背中せなかへぴつたり。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ある婦人が市街まちを歩いてゐると、一人の男が横合よこつちよから飛び出して来て、じつと婦人をんなの顔を見てゐたが、しばらくすると黙つて婦人の跡をつけた。婦人は立ち止つた。
すると……婦人をんな主人あるじふのは……二階座敷にかいざしきのないなかを、なまめかしいひと周圍まはりを、ふら/\とまはりめぐつた影法師かげぼふしとはちがふらしい。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
未来派の詩人マリネツチはこんな事を言つたが、ほかの事はかく婦人をんなに対する侮蔑さげすみを思はせるだけでも、戦争は吾々にとつて鉄剤同様一種の健康剤たるを失はない。
一體いつたい誰彼たれかれといふうちに、さしいそいだたびなれば、註文ちうもんあはず、ことわか婦人をんななり。うつかりしたものもれられねば、ともさしてられもせぬ。
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
このごろの暖い春日和にはそれをいろんな木に懸けて休むが、一度だつて盗まれた事が無い。日本の木は日本の婦人をんなのやうにむやみに外套を欲しがらないものと見える。
二人ふたり婦人をんなは、民也たみやのためには宿世すぐせからのえんえる。ふとしたときおもひもけないところへ、ゆめのやうに姿すがたあらはす——
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
罪のない子役のませた仕草しぐさは、涙脆なみだもろ桟敷さじき婦人をんな客を直ぐ泣かせる事が出来るので、横着な興行師しうち俳優やくしややは、成るべく年端としはかない、柄の小さい子役を舞台に立たせようとする。
褄前つまさきそろへてすそみくゞむやうにして、圓髷まげ島田しまだ對丈つゐたけに、面影おもかげしろく、ふツとつた、兩個ふたりらぬ婦人をんながある。
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
旗野の主人あるじ血刀ちがたなひつさげ、「やをれ婦人をんなく覚めよ」とお村のあばら蹴返けかへせしが、くわつはふにやかなひけむ、うむと一声ひとこゑ呼吸いきでて、あれと驚き起返おきかへる。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
わがまゝのやうだけれど、銀杏返いてふがへし圓髷まるまげ不可いけない。「だらしはないぜ、馬鹿ばかにしてる。」が、いきどほつたのではけつしてない。一寸ちよつとたびでも婦人をんなである。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ところが、今日けふくわい眞面目まじめなんだよ。婦人をんなたちはおしやくたのでもなければ、取卷とりまきでもない、じつ施主せしゆなんだ。」
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
先生せんせい束髪そくはつつた、いろくろい、なりのひく頑丈がんじやうな、でく/\ふとつた婦人をんなかたで、わたしがさういふとかほあかうした。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
生死しやうしらぬが、……いま唯吉たゞきちが、屋根越やねごしに、まどまどとに相對あひたいして、ものふはすなは婦人をんななのである。……
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
予はほとんぜつせむとせり、そも何者の見えしとするぞ、雪もて築ける裸体らたい婦人をんな、あるがごとく無きが如きともしびの蔭に朦朧もうろうと乳房のあたりほの見えて描ける如くたゝずめり。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
さればたまの絶えしにあらねば、うつゝ号泣がうきふする糸より細き婦人をんなの声は、終日ひねもすひまなかりしとぞ。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ふねどう嬰兒あかご一人ひとり黄色きいろうらをつけた、くれなゐたのがすべつて、婦人をんなまねくにつれて、ふねごときつけらるゝやうに、みづうへをする/\となゝめにく。
三尺角拾遺:(木精) (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
……あはれな犠牲いけにえ婦人をんなも、たゞまをしたばかりでは、をつとこゝろうたがひませう……いましるしを、とふてな、いろせたが、可愛かあいくちびるうごかすと、白歯しらはくはえたものがある。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
と、差配さはいむねうへそのためか、婦人をんなこゑひそめたが、電車でんしやきしみひゞかぬ夜更よふけ
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
おう」は普通ふつう乞食こつじきひとしく、かげもなき貧民ひんみんなり。頭髮とうはつ婦人をんなのごとくながびたるをむすばず、かたよりれてかゝといたる。跣足せんそくにて行歩かうほはなはけんなり。容顏ようがん隱險いんけんび、みゝさとく、するどし。
蛇くひ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
婦人をんな二人ふたり何時いつちがはぬ、顏容かほかたちとしらず、ちつともかはらず、同一おなじである。
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
『おゝ、わしいま出逢であふた、水底みなぞこから仰向あふむけにかほいた婦人をんなことぢや。』
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
其處そこへもて、白身はくしん婦人をんなるのかもれません。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)