をつと)” の例文
Y子なんぞは死んでをつとに解剖されるんだから餘榮ありですよ。……兄さんはすぐお歸りですか。お歸りならどうか葬式の用意を……
実験室 (旧字旧仮名) / 有島武郎(著)
子もあまた生みたれど、すべてをつとが食ひ尽くして一人かくのごとくあり。おのれはこの地に一生涯を送ることなるべし。人にも言ふな。
遠野物語 (新字旧仮名) / 柳田国男(著)
妻を盗まれたをつとの霊、娘をかすめられた父親の霊、恋人を奪はれた若者の霊。——この河に浮き沈む無数の霊は、一人も残らず男だつた。
LOS CAPRICHOS (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
すぐをつとそばから松葉まつばひろげてあななかをつついた。と、はちはあわててあなからたが、たちま松葉まつばむかつて威嚇的ゐかくてき素振そぶりせた。
画家とセリセリス (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
いまこそ彼女かのぢよは、をつとれい純潔じゆんけつ子供こどもまへに、たとへ一時いつときでもそのたましひけがしたくゐあかしのために、ぬことが出來できるやうにさへおもつた。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
尋ね出してをつと道十郎殿の惡名をすゝがせん者をと夫より心を定め赤坂あかさか傳馬町でんまちやうへと引取られ同町にておもてながらもいとせま孫店まごだな借受かりうけ爰に雨露うろ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
わたしおもひどほりのふかこゝろざしせたかたでなくては、をつとさだめることは出來できません。それはたいしてむづかしいことでもありません。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
○かくて産後さんご日をてのち、連日れんじつの雪も降止ふりやみ天気おだやかなる日、よめをつとにむかひ、今日けふ親里おやざとゆかんとおもふ、いかにやせんといふ。
御米およね御前おまい子供こども出來できたんぢやないか」とわらひながらつた。御米およね返事へんじもせずに俯向うつむいてしきりにをつと脊廣せびろほこりはらつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
こゝおいかくおほすべきにあらざるをつて、ひざいて、前夫ぜんぷ飛脚ひきやくつて曳出ひきだすとともに、をつと足許あしもとひざまづいて、哀求あいきうす。いは
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
奧さんのあたまの中では、また考がさきのとほりに、どうどうめぐりをしてゐる。をつとに別れるのも嫌な事だから、それを思ひ切つてすることは出來ない。
半日 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
勝四郎が妻なるものも、いづちへものがれんものをと思ひしかど、此の秋を待てと聞えしをつとことばを頼みつつも、安からぬ心に日をかぞへて暮しける。
まちをつと末男すゑをは、偶然ぐうぜんにも彼女かれとおなじ北海道ほくかいだううまれたをとこであつた。彼女かれはそれを不思議ふしぎ奇遇きぐうのやうによろこんだ。
追憶 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
わたしをつとなるあなたの、わたしつけてあひずにつていらつしやるおそでを、よくようとかんがへて、わたしつたのです。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
私を殺さうとして居る曲者の顏を見てから、私はもうすつかり觀念してしまひました。その曲者は、——私のをつと——
其後そののちをつとみづか(六二)抑損よくそんす、晏子あんしあやしんでこれふ。ぎよじつもつこたふ。晏子あんしすすめてもつ大夫たいふせり。
... ただの江戸えどであるよりも生粹きつすゐとつけたはうよろこぶらしい)それから、その——(をつとといつていゝか、つばめ?——すこし、禿はげすぎてゐるが)あいする於莵吉おときちは十一も齡下としした
垢だらけの胸をはだけて乳をやる母親は、鼻が推潰した樣で、土に染みた髮は異な臭氣を放つて居たが、……噫、淺間しいもんだ那麽あんな時でも那麽あんな氣を、と思ふと其をつと
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
底ありふたありで親もとがめず、をつとも咎めぬものをアカの他人たにんとがめても、ハイ、しませうと出るはずのない事だがぼくとても内職ないしよくそのものを直々ぢき/″\不可わるいといふのではない
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
「フオースト」のマーガレツトが其をつとの去りたるあとに心狂はしく歌ひ出でたる「我が心は重し、我平和は失せたり」の霊妙なる歌にくらべても、まで劣るべしとは思はれず。
「歌念仏」を読みて (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
おれのせつなる願ひにも拘らず、四年間、頑張り通した。今だから教へてやるが、おれのをつととしての心遣ひは、さういふところまで見越してゐたんだ。さあ、なんとか返事をしろ。
医術の進歩 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
葉書はがきかずが五百まいたつしたとき、とう/\教頭けうとうおくさんがきだしてをつと辭職じしよくすゝめた。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
舅の仇を報いんともせざるはまことに武門の耻辱にこそと思はれけれども、則重公近頃の容態にては中々に力およばず、云ふ甲斐かひなきをつとを持ちけるよと心憂く思召おぼしめされける折柄
花ならば蕾、月ならば新月、いづれ末は玉の輿こしにも乘るべき人が、品もあらんに世をよそなる尼法師に樣を變へたるは、慕ふをつとに別れてか、つれなき人を思うてか、みち、戀路ならんとの噂。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
密通みつつうしたるをんなのただ一人ひとりをつといへかへるがごとく
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
抱還いだきかへれば、待構まちかまへたるをつと喜悦よろこびたと
鬼桃太郎 (旧字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
わたしはまたこのときも、うしなつてしまつたのでせう。やつとあたりをまはしたときには、をつとはもうしばられたまま、とうにいきえてゐました。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
はちはそれにとまつてしばらをつと氣配けはいうかゞつてゐるらしかつたが、それが身動みうごきもしないのをると、死骸しがいはなれてすぐちかくの地面ぢべたりた。
画家とセリセリス (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
七兵衛がつまもかたはらにありしが、をつとにむかひ、とてもの事にもちをつきたまへとすゝむ。いかにもよからんとてにはかにそのもよほしをなしけり。
御米およねもつまりはをつと歸宅後きたくご會話くわいわ材料ざいれうとして、伊藤公いとうこう引合ひきあひぐらゐところだから、宗助そうすけすゝまない方向はうかうへは、たつてはなし引張ひつぱりたくはなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
すくふには、天守てんしゆ主人あるじ満足まんぞくする、自分じぶん身代みがはりにるほどな、木彫きぼりざうを、をつときざんでつくなことで。ほかたすかるすべはない……とあつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
しかもクリスチヤンの彼女かれをつとが、まち日曜にちえふごとにかよつてゐた札幌さつぽろのおなじある教會けうくわいに、熱心ねつしんかよつてたことなどがわかると、彼女かれはなんだか
追憶 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
したゝめ吉三郎盜賊人殺しに相違さうゐなきむねうつたへんとて番頭へも其趣そのおもぶき申きけければ妻のおつたをつといさめ吉三郎は勿々なか/\然樣さやうの事を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
どうも歸るわけにはいかなかつたのだと思ふ。今をつとを愛してゐるだらうかと、自ら問うて見る。をつとい男ではない。
半日 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
彼女かのぢよはレースいと編物あみものなかいろめたをつと寫眞しやしんながめた。あたかもそのくちびるが、感謝かんしやいたはりの言葉ことばによつてひらかれるのをまもるやうに、彼女かのぢよこゝろをごつてゐた。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
一二きんせいするはにあり。を制するは其のをつと々しきにありといふは、にさることぞかし。
垢だらけの胸をはだけて乳をやる母親は、鼻が推潰おしつぶした様で、土に染みた髪は異な臭気を放つて居たが、……噫、浅間しいもんだ、那麽あんな時でも那麽気を、と思ふと其をつと
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
私のをつと玄策げんさくに取り入り、娘のお直をだまして養子に入り、夫玄策の死んだ後は、この朝井家のかぶから家から、へつゝひの下の灰までも自分のものにした上、三年經たないうちに
をつとをして三井みつゐ白木しろき下村しもむら売出うりだ広告くわうこくの前に立たしむればこれあるかな必要ひつえうの一器械きかいなり。あれがしいのうつたへをなすにあらざるよりは、がうもアナタの存在をみとむることなし
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
をつとに先き立たれるまでは、口小言一つ云はず、はき/\と立ち働いて、病人が何か口やかましく註文事をした時でも、黙つたまゝでおいそれと手取早てつとりばやく用事を足してやつたが
お末の死 (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
哲學的てつがくてき解釋かいしやくすれば、進歩的頭腦しんぽてきづなうであり、藝者げいしやにいはせると、女文士をんなぶんしつて道樂氣だうらくきおほいものね、であり、醫學的いがくてき考察かうさつすれば、をつと年齡ねんれいわかさによる生理的現象せいりてきげんしようであり、またこれを
夕暮れになり夜になるまで探しあるきしが、これを見つくることを得ずして、つひにこの鳥になりたりといふ。オツトーン、オツトーンといふはをつとのことなり。末の方かすれてあはれなる鳴き声なり。
遠野物語 (新字旧仮名) / 柳田国男(著)
すでにしてかへる、其妻そのつまらんとふ。をつと其故そのゆゑふ。つまいは
一般についていふんですから、をつとつていふことにしますわ。
ママ先生とその夫 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
そのうちにやつとがついてると、あのこん水干すゐかんをとこは、もう何處どこかへつてゐました。あとにはただすぎがたに、をつとしばられてゐるだけです。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
さすがにかくしきれもせずに、をつとがてれくさ顏附かほつきでその壁掛かべかけつつみをほどくと、あんでうつま非難ひなんけながらさうつた。
画家とセリセリス (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
其内そのうちにはまた屹度きつとことがあつてよ。さう/\わることばかりつゞくものぢやないから」とをつとなぐさめるやうことがあつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
あけてはをつとにもげられねば、病氣びやうき介抱かいはうことわるとふわけにかないので、あい/\と、うちのこことつたのは、まないたのない人身御供ひとみごくうおなことで。
一席話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
多緒子は床のなかで、をつとの唄ふ歌の聲を嬉しさうに聞いてゐた。そして快くなりかけた肉體からだのすべてに幸福な哀愁が、靜かに流れてゐるのを覺えた。
(旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
いつであつたか、「い男は年を取るとそこねるから、おれのやうな醜男子の方がとくだ」と、をつとの云つたことがある。
半日 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)