黄味きみ)” の例文
不思議なほど濃紫こむらさき晴上はれあがった大和の空、晩春四月の薄紅うすべにの華やかな絵のような太陽は、さながら陽気にふるえる様に暖かく黄味きみ光線ひかり注落そそぎおとす。
菜の花物語 (新字新仮名) / 児玉花外(著)
たゝみしわひとつづゝ、いやな黄味きみびて、えかゝる提灯ちやうちんかげで、ひく/\とみなれる、猅々ひゝ化猫ばけねこである。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
石見と南朝鮮とは向い合っている間柄であります。「石州」と呼ばれている手漉紙は、強いこうぞから作られ、色は黄味きみを帯び極めて張りのある品であります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
薄暗い閉めこまれた部屋にあん子の顏は削り立ての板切れの、黄味きみを刻々にふくらがしてゐるやうで、何時までもそのまま夕方までぽかんとしてゐるのである。
神のない子 (旧字旧仮名) / 室生犀星(著)
一体、こまに水がかかると少し色がはげますが、よくこの牌を見ると、はげたばかりでなく元は赤と青とであったものが、赤は黒くなり、青は黄味きみを帯びています。
麻雀殺人事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
室内しつない一面いちめん濛々もう/\としたうへへ、あくどい黄味きみびたのが、生暖なまぬるつくつて、むく/\あわくやうに、……獅噛面しかみづら切齒くひしばつた窓々まど/\の、隙間すきま隙間すきま天井てんじやう廂合ひあはひから流込ながれこむ。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
で、なんとなく、お伽話とぎばなしを聞くようで、黄昏たそがれのものの気勢けはいが胸にみた。——なるほど、そんなものもそうに思って、ほぼその色も、黒の処へ黄味きみがかって、ヒヤリとしたものらしく考えた。
海の使者 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)