しら)” の例文
旧字:
天明、明治は芭蕉時代の祖述と言っても間違いはないのである。大正に至ってどう変化するかは未定の問題である。今少し芭蕉の句をしらべて見よう。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
私は水車小屋で貰って来た水筒の酒をゼーロンの口に注ぎ込んだり、蹄鉄をしらべたり、脚部を酒のしずくで湿布したりして行手の径のための大事をとった。
ゼーロン (新字新仮名) / 牧野信一(著)
「僕は動物の心臓というものに興味が出て来ましたよ。どうも、いろいろ心臓に種類があるような気がして来て、これを皆しらべたら面白いだろうなアと思いました。」
微笑 (新字新仮名) / 横光利一(著)
玉は女を抱きかかえて室の中へれて来た。女の顔色は土のようになっていた。見るとえりから袖にかけてべっとりと血がついていた。その指をしらべると右のおやゆびれていた。
阿英 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
「そうだ、鹿は射殺されて向こうの雪の上に倒れている。あれを拾って来てしらべて見よう」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼が無理無体に男の身体をしらべて見ると、兵児帯に一円五十銭の金銭をくるんで持って居た。彼は、的切てつきりり窃盗犯だと推定した。男に住所や氏名を聞いても決して云はなかった。たゞ
奥間巡査 (新字旧仮名) / 池宮城積宝(著)
意気事をめるちゅうから、しゃくに障ってな、いろいろしらべたが何事もないで、為方しかたがない、内に居る母親おふくろが寺まいりをするのに木綿を着せて、うぬ傾城買じょろうかいをするのに絹をまとうのは何たることじゃ
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
方棟はそのわけを話した。細君は園へ出てしらべた。果して蘭は枯れていた。
瞳人語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
極く稀れな場合に夫婦が結婚後初めて恋に落ち入ると云ふ奇蹟的現象を聞くこともあるが、よく/\しらべて見ると、やむを得ない場合に於ける単なる調停妥協だと云ふことが発見せられるだらう。
結婚と恋愛 (新字旧仮名) / エマ・ゴールドマン(著)
だから、私は仮令よし真面目な勉強をするようになった後でも、試験の前々から決して苦しむようなことはせず、試験のその前夜になって、始めてしらべて置くというような方法をっていた位である。
私の経過した学生時代 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「いや、それには及びません。丁度私もしらべものもありますから、あそこをお借りいたしてゐませう。」
夏ちかきころ (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
樵人はそこで自分でくびを突いて死んだ。皆がいり乱れて集まって来て見た。中に識っている者があって樵夫は田七郎だといった。邑宰は胸の鼓動が収まったので、始めて出て七郎をしらべた。
田七郎 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
梶はこの経済上のからくりに興味を感じたのでハンガリア人を使って種種の方面からしらべてみた。すると、そのマッチ一箇の値段の中から意外にも複雑なヨーロッパの傷痕しょうこんが続続と露出して来た。
厨房日記 (新字新仮名) / 横光利一(著)
……貴下あなたをお呼立した次第です。ちょっとおしらべを願いましょうか。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しらべて見れば、それはまたあまりに白々しい放埒の仮面をかむつてゐるではないか。
鶴がゐた家 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
それがひどく阿英に似ているので、嫂は珏にそういって傍へいってしらべさした。果してそれは阿英であった。珏はうれしくてうれしくてたまらないので、そのままをつかまえてはなさなかった。
阿英 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
このためここの白い看護婦たちは、患者の脈をしらべる巧妙な手つきと同様に、微笑と秋波しゅうはを名優のように整頓しなければならなかった。しかし、彼女たちといえども一対の大きな乳房をもっていた。
花園の思想 (新字新仮名) / 横光利一(著)
人びとは一緒に王母子のしがいしらべた。窓の上に一つのはこがあった。開けて見ると庚娘の書いた物があって、くわしく復讎ふくしゅうの事情を記してあった。皆庚娘を烈女として尊敬し、金を集めて葬ることにした。
庚娘 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
念入りにしらべたなら、あるいは純粋小説があるのかもしれない。
純粋小説論 (新字新仮名) / 横光利一(著)