面構つらがまえ)” の例文
頭髪あたかも銀のごとく、額げて、ひげまだらに、いといかめしき面構つらがまえの一癖あるべく見えけるが、のぶとき声にてお通をしか
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いったい下のばばあは何者だろう——かえって茫然とした、あの罪がないような顔が、獰悪どうあく面構つらがまえよりも意味ありげに思われて、一刻も居堪いたたまらない。
老婆 (新字新仮名) / 小川未明(著)
かかる無意味な面構つらがまえを有すべき宿命を帯びて明治の昭代しょうだいに生れて来たのは誰だろう。例のごとく椽の下まで行ってその談話を承わらなくては分らぬ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ダン艇長は、ぶるぶると身ぶるいしながらも、ケレンコ委員長のむきだしの面構つらがまえを見た。
太平洋魔城 (新字新仮名) / 海野十三(著)
風体と面構つらがまえで、その指二本突出して、二両を二百に値切っても、怒って喧嘩はしないけれど、たれも取合うものはなし。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼は性の悪い牡蠣かきのごとく書斎に吸い付いて、かつて外界に向って口をひらいた事がない。それで自分だけはすこぶる達観したような面構つらがまえをしているのはちょっとおかしい。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今迄男の前に立って両腕を組んで、足で折れた鉄砲を蹴やった一番せいの高い獰悪どうあく面構つらがまえをした眼の怪しく光る黒い洋服を着た男はこの時しきりと気を揉むように四辺あたりを歩き廻り始めた。
捕われ人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
にくい悪い日頃から悪んでいる悪魔にでも、この時この一撃で息の音を止めて、恨みをはらしてやるというような面構つらがまえできっと青褪めた白百合のような眠っている少女の顔を睨み落した。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
これはたくましい毬栗坊主いがぐりぼうずで、叡山えいざん悪僧あくそうと云うべき面構つらがまえである。人が叮寧ていねいに辞令を見せたら見向きもせず、やあ君が新任の人か、ちと遊びに来給きたまえアハハハと云った。何がアハハハだ。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
此の……県に成上なりあがりの豪族、色好いろごのみの男爵で、面構つらがまえ風采ふうつき巨頭公あたまでっかちようたのが、劇興行しばいこうぎょうのはじめからに手を貸さないで紫玉を贔屓ひいきした、既に昨夜ゆうべ或処あるところ一所いっしょに成る約束があつた。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
この……県に成上なりあがりの豪族、色好みの男爵で、面構つらがまえ風采ふうつき巨頭公あたまでっかちによう似たのが、しばい興行のはじめから他に手を貸さないで紫玉を贔屓ひいきした、既に昨夜ゆうべもある処で一所になる約束があった。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
聞くと……真鍮台、またの名を銀流しの藤助とうすけと言う、金箔きんぱくつきの鋳掛屋で、これが三味線の持ぬしであった。面構つらがまえでも知れる……このしたたかものが、やがて涙ぐんで……話したのである。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「どうもお相伴を難有ありがとうございますよ。」とむこうへ坐ったのは、遣手やりてが老いたりという面構つらがまえ目肉めじしが落ちたのに美しく歯を染めている、胡麻塩天窓ごましおあたま、これが秘薬の服方のみかた煎法せんぽう堕胎おろした後始末
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)