いへ)” の例文
よろこばるゝといへどもおや因果いんぐわむく片輪かたわむすめ見世物みせものの如くよろこばるゝのいひにあらねば、決して/\心配しんぱいすべきにあらす。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
などゝいふから、益々ます/\国王こくわう得意とくいになられまして、天下てんかひろしといへども、乃公おれほどの名人めいじんはあるまい、と思つておいでになりました。
詩好の王様と棒縛の旅人 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
又、坤軸こんぢくに根ざすの巌なり。地殻層上の力、そのてこ如何いかに強しといへども、又動かすに由なし、人生最大の権威、一にこの信念の巌上に建てらる。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
主君といへども、無體のことを聽いては、人の妻の道が立つまい。關が死んだのは、妻の道を全うするためだ。
正則に反いたことをすると云ふ權能は帝王といへどもない。これが必要不必要の論であります。
仮名遣意見 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
許せしとはいへども、肉膚を許せしにはあらず、誠心を許せしなり。この誠心は抛げて八房のかうべにかゝれり。かれもしこの誠心を会得すれば好し、然らざれば渠を一刀に刺殺さんとの覚悟あり。
其上そのうへ艇長の書いた事には嘘をく必要のない事実が多い。艇が何度の角度で沈んだ、ガソリンが室内に充ちた、チエインが切れた、電燈が消えた。此等これらの現象に自己広告は平時といへども無益である。
艇長の遺書と中佐の詩 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
カントの超絶てうぜつ哲学てつがく余姚よよう良知説りやうちせつだいすなはだいなりといへども臍栗へそくりぜに牽摺ひきずすのじゆつはるかに生臭なまぐさ坊主ばうず南無なむ阿弥陀仏あみだぶつおよばず。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
世に、最も恐るべき、最も偉大なる、最も堅牢なる、しかして何物の力といへども動かし能はざるものあり。乃ち人の信念也。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
東照權現樣御一統の後は、各藩兵家本草家に兵粮丸を作らせ、いざ鎌倉と言ふ時に備へて居るが、これは祕中の極祕で、家老用人といへどもその製法を知らないのが常だ。
けだしこの運命は恐らくは優人自身といへども予知せざる所。吾人何んぞ今にして其前途のために小心なる妄想をたくましくせんや。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「實は御親類筋の安倍丹之丞樣から、平次殿のことを承つて參つたが、このなぞを解くものは、江戸廣しといへども先づ平次殿の外にはあるまいと——」(「傀儡名臣」參照)
然れども巻頭の中館松生君が私徳論の如きは、其文飛動を欠き精緻を欠くといへども、温健の風、着実のふう、優に彼の気取屋党に一頭地を抜く者と被存候。
渋民村より (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
訊ねて來た男があつた——が、南部兵粮丸は天下知名の祕藥ぢや。臣下といへどもみだりに知ることは相成らぬ。殊に、泰平の今日、兵粮丸などはまづ世に出ぬ方が宜いとしたものであらう
吾人如何に寂寥の児たりといへども、また野翁酒樽しゆそんの歌に和して、愛国の赤子たるに躊躇する者に無御座候ござなくさうらふ
渋民村より (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
不幸にして虹の如き二十有三歳を一期いちごに、葉月二十六日曙近きガデブツシユの戦に敵弾を受けて瞑したりといへども、彼の胸中に覚醒したる理想と其健闘の精神とは
渋民村より (新字旧仮名) / 石川啄木(著)