銀簪ぎんかんざし)” の例文
子分のガラッ八が差出した提灯ちょうちん覚束おぼつかない明りにすかして見ると、若い芸妓げいしゃが一人、銀簪ぎんかんざしを深々と右の眼に突っ立てられて、ざまに死んでいたのです。
果ては、その中から、別に、綺麗な絵の蝋燭を一挺抜くと、それへ火を移して、銀簪ぎんかんざしの耳にとおす。
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
雀羅じゃくらを張った破風はふから鬼の腕でものびそうに思われる、——その朽ちかしいだ山門の、顔をなでられてもわからないようなやみのなかに、チラリと、銀簪ぎんかんざしの光がうごきました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
シャンデリアの光に髪に差してある、銀簪ぎんかんざしのピラピラが、燐火を燃やしているように見えた。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
つぶしに大きな平打ひらうち銀簪ぎんかんざし八丈はちじょう半纏はんてん紺足袋こんたびをはき、霜やけにて少し頬の赤くなりし円顔まるがお鼻高からず、襟白粉えりおしろい唐縮緬とうちりめん半襟はんえりの汚れた塩梅あんばい、知らざるものは矢場女やばおんなとも思ふべけれど
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
銀簪ぎんかんざし
顎十郎捕物帳:23 猫眼の男 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
子分のガラツ八が差出した提灯の覺束ない明りにすかして見ると、若い藝妓が一人、銀簪ぎんかんざしを深々と右の眼に突つ立てられて、仰向け樣に死んで居たのです。
さては両人共崖にち候が勿怪もっけ仕合しあわせにて、手きずも負はず立去り候ものなど思ひながら、ふと足元を見候に、草の上に平打ひらうち銀簪ぎんかんざし一本落ちをり候は、申すまでもなくかの娘御の物なるべくと
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
振り上げた銀簪ぎんかんざし逆手握さかてにぎり、常夜燈の光でギラギラギラ! 左手で取り上げたつまを洩れ、翻めく蹴出しは水色だ。それへ点々と滴る血! はみ出した脛の真っ白さ! いつか駒下駄脱ぎすててある。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
眼に突つ立てた銀簪ぎんかんざしは、鷹の羽を淺く彫つた平打の丈夫な品で、若い藝妓の頭を飾るにしては少し野暮やぼです。
銀簪ぎんかんざしだ!
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「平打の銀簪ぎんかんざしで、間違ひやうのない品ですが、内儀さんは昨夜そんなものをさしてはゐなかつたと言ふのも聽かずに、三輪の親分は引つ立てて行きましたよ」
娘盛りの頃、強盜に手籠てごめにされさうになつて、銀簪ぎんかんざしで眼を突いて危ふいところをまぬがれたことがありました。
「そんな間抜けたものを用意するものか。俺のは女房の銀簪ぎんかんざしをかりて、足を曲げて髷の中へ仕込んだよ。切られるとカチリと言ったが、毛は少しげたかも知れない」
「そんな間拔けたものを用意するものか。俺のは女房の銀簪ぎんかんざしをかりて、足を曲げて髷の中へ仕込んだよ。切られるとカチリと言つたが、毛は少しげたかも知れない」
お銀のは手打の銀簪ぎんかんざしで、笹龍膽さゝりんどうを彫つた珍らしいもの、これは生みの母親——つまり庄司伊左衞門が手を付けた女中から貰つたものだと言ひますが、誰もそんなものを知つてはをらず
それは何んと、長襦袢ながじゆばんを踏みはだけた寢亂れ姿、髮が少し亂れて、銀簪ぎんかんざしを振り冠つた青い顏——あゐを塗つたやうな鬼畜きちくの顏——まぎれもない、内儀のお輝の血にかわく、物凄い顏だつたのです。
醫者の差出した銀簪ぎんかんざしを見ると、成程その先が青黒く色變りがして居ります。
出してもよからう、——俺の調べたところでは、お銀は小田原在の百姓の娘で調布の仁兵衞の養ひ娘ではない。笹龍膽さゝりんどう銀簪ぎんかんざしは金五郎の細工だ、——いや金五郎はもう恐れ入つて白状して居るよ
御内儀の銀簪ぎんかんざし、二分か三朱のかせぎに滿足して、萬々一思はぬ大金をすり取つたりすると、大骨を折つてすられた人を搜し出し、要らない分は、窓から投げ返して來るといふ、途方もない潔癖けつぺきさです。
今は跡形もありませんが、その頃流行はやった瓦町かわらまち焙烙地蔵ほうろくじぞう様の門前、お百度石の側で、同じ町内の糸屋の娘お駒が、銀簪ぎんかんざしに右の眼玉を突かれて、芸妓奴と同じように、無慙むざんな死に様をしていたのです。
お藤を産んだ下女の名はお篠と言つたこと、——お篠は笹龍膽さゝりんどう銀簪ぎんかんざしを持つてゐたこと、——そしてお藤のために眞鍮の迷子札を作つて、そつと守り袋へ入れてやつた覺えのあること——などでした。