鉾先ほこさき)” の例文
私の沈黙が鋭い兄さんの鉾先ほこさきにぶらせた例は、今までにも何遍かありました。そうしてそれがことごとく偶然から来ているのです。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのあいだに、天野あまの猪子いのこ足助あすけなどが、鉾先ほこさきをそろえてきたため、みすみす長蛇ちょうだいっしながら、それと戦わねばならなかった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
久兵衛、その代り前へ進んで一気に思いを遂げようとした。お茶漬を食べてひらりひらりと鉾先ほこさきを交し、お艶はなおも近江屋一件を頼み込んで帰る。
そう云うことを兄さんに云わして置く姉ちゃんが悪い、と、今迄義兄を攻撃しても姉を批難したことはなかったのに、今度はもっぱ鉾先ほこさきを姉に向けた。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
署長は暫く私の顔を見つめていたが、その事については、もう追及しようとせず、質問の鉾先ほこさきを一転したのだった。
血液型殺人事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
館林では三千余騎が合体していたのに僅か三日しか保たなかった、忍などは唯ひと揉みと攻め寄せたのに、意外にもその鉾先ほこさきはぐわんとはね返された。
荒法師 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ムク犬は後ろへ退しさってその槍の鉾先ほこさきを避けました。勢い込んだ神尾主膳は、のがさじとそれを突っかけます。
が、もとより年をとった彼が、この侍の相手になるわけはない。まだ十合じゅうごうを合わせないうちに、見る見る、鉾先ほこさきがしどろになって、次第にあとへ下がってゆく。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
人々は聞こえないふうをしていた。彼はことに、踊ってる男女に鉾先ほこさきを向けて、その身体の美点や欠点を、破廉恥な言葉で述べたてた。連中はそれでどっと笑った。
金十郎も鉾先ほこさきを折り、尻内へ帰ってぼんやりしていたが、いろいろと考えあわせると、笹木野の萱の中からものを言いかけたのが、知嘉姫だったように思えてならない。
奥の海 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
訶和郎の血走った眼と、香取の泣き濡れた眼とは、泉の傍から、森林の濃緑色の団塊に切られながら、長く霜のように輝いて動いて行く兵士たちの鉾先ほこさきを見詰めていた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
今度は良兼もをかしな智慧ちゑを出して、将門の父良将祖父高望王の像を陣頭に持出して、さあが放せるなら放して見よ、鉾先ほこさきが向けらるゝなら向けて見よと、取つてかゝつた。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
水流つるさんにまで鉾先ほこさきが向いて来たというのは、お前さんのその短気な大風おおふうたたったということを考えてもらわなければならんのだが、今が今どう性根を入れ換えてくれという話じゃない。
鬼涙村 (新字新仮名) / 牧野信一(著)
いま、あおげば、七星は、その鋭い鉾先ほこさきを、東南に向けている。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
警部の鉾先ほこさきは益々鋭い。併し、明智は少しも驚かぬ。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そして結局は、足軽が三人の侍を相手にして勝ったとなると、かれらの鉾先ほこさきが自分に向って来るのは当然である。
薯粥 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
で、こんどは如才じょさいなく、はなしの鉾先ほこさきをかえて、なんでぶっそうなのか、事情じじょうをさぐってみようと考えた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今度は鉾先ほこさきがお蘭さんなるものの方に向って、しきりにそのお蘭さんをくやしがるものですから、兵馬は自然、過ぐる夜のことを思い起さないわけにはゆきません。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
自分はどんな議論が彼の口から出るか、次第によっては途中からその鉾先ほこさきを、一座の迷惑にならない方角へ向易むけかえようと思って聞いていた。すると彼はこう続けた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今氏郷は南から来て四竈を過ぎて其の中新田城に陣取ったが、大崎家の余り強くも無い鉾先ほこさきですら、中新田の北に当って同盟者をさえ有した伊達家の兵に大打撃を与え得た地勢である。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そして否とも応とも答えなかった。しかし百姓はしつこく言いたてた。取って置きのクリストフ自身やルイザの方へ鉾先ほこさきを向けて、牛乳やバタやクリームを無理にも押しつけようとした。
「決死の鉾先ほこさきをうけてはたまりません。故に、それを避くべきで、それがしの苦慮くりょもそこにあります」
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かえって暴女王がかおをそむけて、米友の鉾先ほこさきを避けようとすることさえあるのを見受けるのです。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そこでリュシアン・レヴィー・クールは、単に思想上の抽象的な対抗から、注意深く鉾先ほこさきを隠した対人間的な戦いへ、それとなく移っていった。コレットがその懸賞品たるべきはずだった。
麾下きかの一兵として、藤吉郎の手に加わってはいるが、いずれもつい先頃までは、浅井家や朝倉家の禄をんでいた者であるから、当然、敵へ駈け向わせても、その鉾先ほこさきは弱いにきまっている。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そういう鉾先ほこさきは、かわすに限る」
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
逆に言葉の鉾先ほこさきをねじ向けると
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)