邏卒らそつ)” の例文
鼓手こしゅ邏卒らそつ馬簾ばれん軍監ぐんかん、乗り換え馬——小荷駄、物見、大荷駄おおにだなど、無慮七千五百騎ばかり、見る者をして頼もしさを抱かせた。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
警察もきびしくなって、その年の四月以来江戸市中に置かれたという邏卒らそつが組のしるしを腰につけながら屯所たむろしょから回って来た。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
何処どこ此処ここ至極しごく都合のい折柄、幸いにも東京府から私に頼む事が出来て来たと云うは、当時東京の取締には邏卒らそつとか何とか云う名を付けて
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「いや、まことにお気の毒だが、役向は上から下までもう悉皆詰まって、邏卒らそつが残っているばかりだ。邏卒じゃ厭だろう?」
小問題大問題 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
その番兵の前からポリスというものがあって、これが邏卒らそつとなり、巡邏となり、巡査となったので、初めはポリスって原語で呼んでいた訳ですな。
江戸か東京か (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
王はよんどころなく引っ返して、路をかえて行こうとする時、あたかも邏卒らそつが来合わせて捕えられた。
その頃、士族のした連の成れの果は皆、警官(邏卒らそつ、部長、警部等)に採用されていたものであったが、この羅卒(今の巡査)連中が皆鎮台兵とりが合わなかった。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
わたしは仕方なしに後方の人込ひとごみに揉まれて舞台を見ると、ふけおやまが歌をうたっていた。その女形おんながたは口の辺に火のついた紙捻こよりを二本刺し、側に一人の邏卒らそつが立っていた。
村芝居 (新字新仮名) / 魯迅(著)
ちょうど大蘇芳年おおそよしとしの血みどろな木版画が絵草紙屋の店頭を飾っていた邏卒らそつ時代なんだが、その頃ドナウヴェルト警察に、現在科学警察を率いている君よりも遙かに結構な推理力を備えた
聖アレキセイ寺院の惨劇 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
妻恋坂下に一万石の建部内匠頭たてべたくみのかみというお大名が有ります、その長家ながやの下に待って居ましたが、只今と違ってお巡りさんという御役が有りません、邏卒らそつとか云って時々廻るかたが有った時分で
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
二俣ふたまたの奥、戸室とむろふもと、岩で城をいた山寺に、兇賊きょうぞくこもると知れて、まだ邏卒らそつといった時分、捕方とりかた多人数たにんず隠家かくれがを取巻いた時、表門の真只中まっただなかへ、その親仁おやじだと言います、六尺一つの丸裸体まるはだか
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二十五年前喜望峯東南州の荒野で邏卒らそつ二名が猴群にまじった一男児をみつけ、れ帰ってルカスと名づけ、農業を教えると、智慧は同侶に及ばねど力量と勤勉と信用はまさり、よく主人に仕え
と、院の名誉と、高足阿巌こうそくあごんの無念を、ここでそそごうとする宿意が、もうおもても向けられない。ちょうど、地獄の邏卒らそつが列を作っているのと変りはない。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかるに人民みなこの禁令の貴きを知らずしてただ邏卒らそつを恐るるのみ。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「僕も然うすれば立派に卒業しているんだが、遺伝だから仕方がない。田川家は代々東京へ行って失敗している。僕で三代目だ。卓ちゃん、君はお祖父さんが邏卒らそつになった話を聞いているかい?」
村の成功者 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
夜廻りの邏卒らそつが府庁に出て申し立てた。
「さあ、わが輩が追っついたからには、もう、てめえたち邏卒らそつは、召使いも同然だぞ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼の目には地獄の火と邏卒らそつのようにそれが映った。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)