まい)” の例文
また、銀鴨一羽取りて(兼ねて鳥屋とや内に置く)参進して葉柯ようかに附くとあり。これは銀製の鴨を余興にまいらせたと見ゆ。
貞子のかたはいと不興げにそのまま帰らせたまいける。綾子は再び出できたらず、膳をまいらせんと入行いりゆきたる下婢かひのお松を戒めて、固く人の出入を禁じぬ。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「家康公の御手を執て、あれ見給へ、北条家の滅亡程有るべからず。気味のよき事にてこそあれ。左あれば、関八州は貴客にまいらすべし」(関八州古戦録)と言って
小田原陣 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
七十一座の神々にまいらする相嘗祭への弊物に、種目数量の若干の異同があったことは、何かそれぞれの理由が有ったはずだが、それをかんがえてみる力は今の私にはない。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
... なさけあだしためならず、皆これ和主にまいらせんためなり」ト、いふに黒衣も打ちわらいて、「そはいとやすき事なり。幸ひこれに弓あれば、これにて共にき往かん。まづ待ち給へせん用あり」
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
そちは軍事から政治向きまで、弟直義にゆだねて、多くは自身あずからぬようにいうたが、そちの約定やくじょうによれば、天下の成敗は公家くげにまかせまいらさん——と、明記しておる。その儀と、矛盾むじゅんはせぬか
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
妾実は家も骨内みうちもない孤児だが、ふと君を一日まいらせてより去りがたく覚えた熱情の極、最前のようなうそいたも、お前と夫婦に成田山なりたさん早く新勝寺しんしょうじを持って見たいと聞いて
出来るかぎり清くけがれなくして、元は最も神の御座に近くまいらせんとして、時としては眼に見えぬ霊体の所在を標示する樹枝や斎串いわいぐしの木に、直接にわえつける習わしがあったらしく
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
かく存命ながらへて今日までも、君にかしずきまゐらせしは、妾がために雄の仇なる、かの烏円をその場を去らせず、討ちて給ひし黄金ぬしが、御情にほだされて、早晩いつかは君の御為おんために、この命をまいらせんと
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
座敷の真中に坐せる主婦に鶏卵一つまいらする途中、客人を見て長揖ちょうゆうする刹那、屁をひりたくなり、つとめて尻をすぼめる余勢に、こぶしを握り過ぎて卵を潰し、大いにおどろいて手をゆるめると
伊勢の海浜で採れたはまぐりを東大寺の上人が買って放ちやると、その夜の夢に蛤多く集まりて、大神宮の前にまいりて得脱するはずだったに、入らぬ世話して苦を重ねしめられたと歎いたと記す。