はる)” の例文
姉妹を初め、三四人の乘客が皆もうプラットフォームに出てゐて、はるか南の方の森の上に煙の見えるのを、今か今かと待つてゐる。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
線路の両側に鬱蒼うっそうと続いていた森が、突然ぱったりと途絶とだえると定規で引いたような直線レールがはるか多摩川の方に白々しらじらと濡れて続いています。
(新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
そうして西に傾きかかった太陽は、この小丘のすそ遠くひろがった有明ありあけの入江の上に、長く曲折しつつはるか水平線の両端に消え入る白い砂丘の上に今は力なくその光を投げていた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
もっとも当時競漕きょうそうの選手になっていた岡田は、体格でははるかに川上なんぞにまさっていたのである。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
主人が人間のよはひの尋常の境をはるかに越してゐて、老後に罹り易い病のどれにも罹らずに、壮んな気力を養つてゐるのは、好い空気のたまものである。主人は生涯に赫々たる功名を遂げた人である。
復讐 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
ひがし西にしみなみ三方さんぽうこのしま全面ぜんめんで、見渡みわたかぎ青々あを/\としたもりつゞき、處々ところ/″\やまもある、たにえる、またはるか/\の先方むかう銀色ぎんしよく一帶いつたい隱見いんけんしてるのは、其邊そのへん一流いちりうかはのあることわかる。
吾人の社會が「野獸や山禽の社會」とはるかに距つた上級のものとなるのであつて、かゝる情懷の發現が其の人に「超物的の高尚な幸福」を與ふるは言ふ迄も無く、そして亦他人には、物質的の幸福と
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
姉妹を初め、三四人の乗客が皆もうプラツトフオームに出てゐて、はるか南のかたの森の上に煙の見えるのを、今か今かと待つてゐる。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
勿論もちろん今はあんな窓を見ようと思ったって、わずかに丸の内のやぐらに残っている位のもので、上野の動物園で獅子ししや虎を飼って置く檻の格子なんぞは、あれよりははるかにきゃしゃに出来ている。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
と、かたをはつて、春枝夫人はるえふじん明眸めいぼう一轉いつてんはるかのそらあほいだ。
燃ゆる様な好摩かうまが原の夏草の中を、驀地ましぐらに走つた二条の鉄軌レールは、車の軋つた痕に烈しく日光を反射して、それに疲れた眼が、はる彼方むかうに快い蔭をつくつた、白樺の木立の中に
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)