辛気しんき)” の例文
旧字:辛氣
駄菓子ではつまらないと見えて腹がグウグウ辛気しんきに鳴っている。隣の古着屋さんの部屋では、秋刀魚さんまを焼く強烈な匂いがしている。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
じめじめした秋の雨が長く続いて、崖際がけぎわの茶のや、玄関わきの長四畳のべとべとする畳触りが、いかにも辛気しんきくさかった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「そう水を向けちゃあいけませんやあねえ。姐御あねご、姐御は苦労人だ。辛気しんき臭くちゃ酒がまずいや、ねえ?」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「ああ、辛気しんきくさい。来たくないっていうものを、なにもむりやりに連れて来なくってもいいじゃないの」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
〽しばしたゝず上手うはてより梅見返うめみがへりの舟のうた。〽忍ぶなら/\やみは置かしやんせ、月に雲のさはりなく、辛気しんき待つよひ十六夜いざよひの、うち首尾しゆびはエーよいとのよいとの。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
席はわたくし一人を取巻いて二人の給仕女中が辛気しんき臭そうに立っているのを見ますと、「おや」と言った後、夫人は「ちょいと/\」と女中を自分の方へ呼び付けました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
その苧糸おいとを紡ぐということは、ジンキの篠巻きよりもはるかに辛気しんきな作業で、一枚の衣物になるのはその糸の全長の総計だけ、指のさきでらなければならなかったのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「ねツからいへんえな。こない待つてて、若し戻つて来いへなんだら、往生やな。鼻緒さへ切れてゐなんだら、何処ぞそこら辺、車通るとこまで歩いて行くんやに、辛気しんきくさ!」
乳の匂ひ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
「ええ辛気しんきな琵琶法師。人の心も知らないで悠長らしく掻き鳴らす事は……ご無用!」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
むかふの三層楼さんがいたか部屋へや障子しやうじに、何時いつまでも何時いつまでもりつける辛気しんきくささ
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
きよきが側から袖を引き「云っちめえな」とささやいた。ふじこは首を振り、それから急に顔をあげて、ああ辛気しんきくせえ、と急に投げやりな調子になって云った、「こんな話しはもうやめた」
「ああ辛気しんきだこと!」と一夜あるよお勢があくびまじりに云ッてなみだぐンだ。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
アメリカでは、あまりこんな辛気しんきくさいものを見かけません。
虫喰い算大会 (新字新仮名) / 海野十三佐野昌一(著)
たどたどと口籠って、ハアッと辛気しんきくさく溜息をつき
顎十郎捕物帳:24 蠑螈 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
辛気しんきくさい娘だね。そんなこと聞きともないよ!」
雑居家族 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
吝々けちけちするのは芸者の禁物であり、辛気しんきくさい洗濯や針仕事は忙しいには無理でもあり、小さい時から家庭を離れている銀子は、見ず知らずのこの土地へ来てからは
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
〽しばしたたず上手うわてより梅見返うめみがえりの舟の唄。〽忍ぶなら忍ぶならやみの夜は置かしやんせ、月に雲のさはりなく、辛気しんき待つ宵、十六夜いざよいの、うち首尾しゅびはエーよいとのよいとの。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
あんまりお見えにならないので、このはすッかり辛気しんきになって、この通りなんでございますの。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おひとりで、辛気しんきくそうござんしょう、お嬢さま」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「オオ辛気しんき、お暑いのにご馳走様」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)