輪奐りんかん)” の例文
かくては今日東京市中の寺院にして輪奐りんかんの美人目じんもくを眩惑せしむるものは僅に浅草の観音堂かんのんどう音羽護国寺おとわごこくじ山門さんもんその二、三に過ぎない。
天文年間の焼亡以前にはあったという二十坊舎の輪奐りんかんの美を完成するにはなお多大な普請ふしんを要するし、現に建築中の部分もあった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さしも京洛きょうらく第一の輪奐りんかんの美をうたわれました万年山相国の巨刹きょさつことごとく焼け落ち、残るは七重の塔が一基さびしく焼野原にそびえ立っているのみでございます。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
甚だしきは支那を学んで及ばざる者が日本の美だと考えている。日本の寺院建築は支那の建築を学んだが、その規模も輪奐りんかんの美もはるかに支那に及ばない。
美の日本的源泉 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
この輪奐りんかんたる堂塔と異国の像を棄てることが第一ではありませんか、俊恵はまずこの仏像を放逐します
荒法師 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
どんなに秘密っぽい輪奐りんかんの美があろうとも、あの無作法な風は、けっして容赦せんでしょうからな。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
また功を遂げずして死せるをもって、世の結構の輪奐りんかんの美をるに至らずしてみたり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
輪奐りんかんの美、——というほどではないにしても、これが私の若き日をすごした学校だとはどうしても考えることのできないほど、今日の「早稲田大学」は堂々たる外観を備えて聳えている。
早稲田大学 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
南品の海を一眸におさめる八つ山の高台に、宏壮輪奐りんかんを極める大邸宅がある。
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
拝金宗の寺院ばかりであるが——両側にいはゆる輪奐りんかんの美を争つて居る。
名古屋スケッチ (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
輪奐りんかんの美今更に言はず。
日光の紅葉 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
かかるとき、なお毅然としてある都門第宅の輪奐りんかんの美も、あらゆる高貴を尊ぶ文化も、日頃の理論や机上の文章も、ついに何の役をもなさなかった。
三国志:12 篇外余録 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さしも京洛きょうらく第一の輪奐りんかんの美をうたはれました万年山相国の巨刹きょさつことごとく焼け落ち、残るは七重の塔が一基さびしく焼野原にそびえ立つてゐるのみでございます。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
まだ「大坂」という地名はなく「難波なにわ」とよび、また、「小坂おさか」といっていたその頃から、四天王寺は堂塔四十幾ツの輪奐りんかんせた大曼陀羅だいまんだらの丘だったが
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、大衆論議の場とされている大講堂の輪奐りんかんは、はや論議のない甲冑かっちゅう刀箭とうせんに埋まり、ただ見る階廊の角に、一りゅうの錦の旗が、露をふくんで垂れていた。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
でも彼は、作戦上、ここを橋頭堡の地と選んだが、四天王寺の輪奐りんかんは、兵火の外におきたいものと考える。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ほりを深くし、城橋を渡し、石垣を築き、輪奐りんかんは寺院であるが、全体は堂々たる城廓をなしていた。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この低地帯にむらがり住む貧者のために考えられた社会救済を、輪奐りんかんの美に権化ごんげしたものだった。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「規模の壮大、輪奐りんかんの華麗、結構とも見事とも、言語に絶して、申し上げようもありません」
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
九頭龍河畔の輪奐りんかんと、幾多の昨夢さくむ千魂せんこんを弔うごとく燃えつづけていたが、一灰と化した焼け跡からは、ほとんど、彼らしいものの何物も見出すことは出来なかったという。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
仏法破壊の魔王とばばよべ、妖婦の虚飾にひとしい一山の輪奐りんかんの美も、お道化者どけものにひとしい甲冑の坊主どもも、一戦の火に葬り去って、その焼けあとに、まこと青人草あおひとぐさを生ぜしめ
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこは薊州けいしゅう城外の古刹こさつ、さすが寺だけは山巒松声さんらんしょうせい、いかにもこけさびた閑寂な輪奐りんかんだった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)