つまず)” の例文
そうだ! そんなことは幾何でもある、わしもそう思ってやったのだ。が、向うでははじめからはかってやった仕事だ。俺が少しでも、つまずくのを
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
自分はつまずきもし、失望もし、迷いもした。しかし大体にいて彼女を救おうとした自分の方針を過まらなかったつもりだと書いた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
当時の気分にとってこれは便宜な考え方であったかも知れないが、明治以来の日本文学の成長のためには画期的な一つのつまずきとなったと思われる。
昭和の十四年間 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
目指す故郷はいつの間にかはるかへだたってしまい、そして私は屡〻つまずいたけれども、それでも動乱に動乱を重ねながらそろそろと故郷の方へと帰って行った。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
(向うを見る。)当途あてども無しに峰や谷間たにあいを駈けまわって、木の根や岩角にでもつまずくか、谷川へでも滑り落ちるか、飛んだ怪我でもしなさらねばよいが……。
人狼 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「一人の小さきものをつまずかすよりは、石臼いしうすくびに懸けて、海に沈めらるる方むしろ安かるべし」
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
彼は立ち上って卑弥呼の部屋へ行こうとしたとき、反絵の足につまずいて前にのめった。しかし、彼の足は急いでいた。彼は蹌踉よろめきながら、彼女の部屋の方へ近づくと、その遣戸やりどを押して中に這入はいった。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
こう言合って、勇気を鼓して進もうとすると、疲れた足の指先は石につまずいて痛い。復たぐったりと倒れるように、草の上へ横に成って休んだ。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
くうを撃ったお杉は力余って、思わず一足前へ蹌踉よろめ機会はずみに、おそらく岩角につまずいたのであろう、身をひるがえして穴の底へ真逆さまに転げちた。蝋燭は消えて真の闇となった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
然し縦令反抗するとも私はこれで筆をくことは出来ない。私は言葉をむちうつことによって自分自身を鞭って見る。私も私の言葉もこの個性表現の困難な仕事に対してつまずくかも知れない。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
われらの前に横たわってわれらの歩を阻むつまずきの石が多いことを感ずる。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
つい、つまずいたら、飛びかゝってやろう位にしか思っていないのですもの。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
彼は何か出張でばった石の頭につまずいてよろけた。
御身 (新字新仮名) / 横光利一(著)
この時、背後うしろの方から不意に物の気息けはいが聞えて、何者か忍び寄るようにも思われたので、市郎は手早く蝋燭をって起上たちあがると、余りに慌てたので、彼は父の死骸につまずいた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
が、心は矢竹やたけはやっても彼女かれはり女である。村境むらざかいまで来るうちに、遂に重太郎の姿を見失ったのみか、我も大浪おおなみのような雪風ゆきかぜに吹きられて、ある茅葺かやぶき屋根の軒下につまずき倒れた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
逃げる奴は何分にも素人しろうとの悲しさ、気ばかりあせって体が前へ泳いでいるので、ちょいとつまずくとすぐに突んのめる。男が何かにつまずいてばったり倒れたところを、二人がすぐに取り押えました。
半七捕物帳:47 金の蝋燭 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)