)” の例文
近くのいそ茶屋で、そのまま歓送の宴が張られた。遅れせに見送りに来た藩士も加えて、人数はいつか二十名近くにもなっている。
濞かみ浪人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
吉原廓よしわらくるわの内外の弥次馬という弥次馬は、数を尽して集まってしまったから、おくせになった三人は、どうしてもその人垣を破ることができません。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
久しく薗八一中節そのはちいっちゅうぶしの如き古曲をのみ喜び聴いていたわたしは、褊狭へんきょうなる自家の旧趣味を棄てておくせながら時代の新俚謡しんりように耳を傾けようと思ったのである。
十日の菊 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
嘆くよりおくせでもひそかに学んで追い付くより仕方がない。彼はしきりに書物を読もうと努めた。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
一つの事が明子の眼にはつきりしてゐた。それは村瀬が遅れせながら、彼等三人の場面にけ上るべく何かにむちうたれてゐたことである。嵐は三人の上に既に去つてゐた。
青いポアン (新字旧仮名) / 神西清(著)
悪戯いたずらな愛の女神がおくせにもその情熱をき立て、悩ましい惑乱の火炎を吹きかけたのだったが、そうなると、彼にもいくらかの世間的な虚栄や好奇な芝居気も出て来て
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
いま聞いてりゃ、車内の者が射ったということだが君が出て来たのは随分経ってからじゃないか。そんなにおくせに出てきて何が判るものか。第一、あたしはあの車内に居たが、ピストルの音を
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)
思い違いしている。つくづく今度はそれが分った。同時に俺自身も悟った。おれはあの善友にまなんで、遅れせだがこれから志を立てる所存だ
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
不時の停車を幸いに、おくせにかけつけた二、三人が、あわてて乗込んだ。その最後の一人は、一時に車中の目を引いたほどの美人で、赤いてがらをかけた年は二十二、三の丸髷まるまげである。
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
これらは、主軍というもので、ほかにも幕令をうけた畿内きない五ヵ国の兵や、東海、山陽、山陰の兵などが、おくれせにも参加したのはいうまでもない。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
セメントの新道路を逍遥して新しき時代の深川を見る時、おくれせながら、わたくしもまた旧時代の審美観から蝉脱せんだつすべき時のきたった事を悟らなければならないような心持もするのである。
深川の散歩 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
おくれせに来た由良弥惣次ゆらやそうじ菱浦五郎ひしうらごろうなどは、みな能登の肉親の者である。彼を叱ッて、兵を一手にまとめ
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
塔之澤の福住ふくずみに着いて女中に案内されるまゝ座敷へ這入ると、丁度浴衣ゆかたに着換へて宴席を開きかけた會員一同は、おくせに思ひも掛けない自分の姿を見ると殆ど總立ちになつて歡迎してくれた。
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
この日、明智の家中進士しんし作左衛門は、一小隊の従者をつれて、おくせに、安土あづちから坂本城へ引き揚げて来た。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、おくせながら、前夜、行宮あんぐうの下に帰り着き、そしてすぐ前線の配備へと廻されていたためだった。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、ここで落合う約束のあった金吾が、遅れせに顔を見せて、同じ席に加わります。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見れば、いまおくせに会場に入って来た凛々りりしい若公卿がある。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
唖然あぜんとして気抜けしている所へおくせに加わった祇園藤次が
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)