裲襠しかけ)” の例文
八文払って入って見ると、看板の裲襠しかけを着けている女が腰をかけている、そのかたわらには三尺ばかりの竹の棒のきが桃色の絹で包んであるのがある。
江戸か東京か (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
どの店にも大きな人形を飾ってあるじゃないか、赤い裲襠しかけを着た姐様ねえさんもあれば、向う顱巻はちまきをした道化もあるし、牛若もあれば、弥次郎兵衛やじろべえもある。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
左右からつッついたりなにかいたします。左様そうされるとされるほど嬉しいもので、つッとちまして裲襠しかけつまをとるところを、うしろからいしきをたゝきます。
勝山髷かつやままげ裲襠しかけというような派手はでなことをしなかった、素人風しろうとふう地味じみ扮装いでたちでいたから、女によっては、それのうつりが非常によく、白ゆもじの年増としま
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
今度は前と違って、吉原の花魁おいらん裲襠しかけを見るような派手なけばけばしい扮装いでたちで、真っ紅な友禅模様の長い裾が暑苦しそうに彼女の白いはぎにからみついた。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
吉里の眼もまず平田に注いだが、すぐ西宮を見て懐愛なつかしそうににッこり笑ッて、「兄さん」と、裲襠しかけを引き摺ッたまま走り寄り、身を投げかけて男の肩をいだいた。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
その間々あいだあいだなる椅子いすには裲襠しかけ着たる遊女同じく長柄ながえのコップを持ち、三絃きゐる芸者と打語うちかたれり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ガラス張りの戸棚のうちには花魁おいらんの着る裲襠しかけが電燈の光を浴びて陳列してあった。そのガラスの廻りにへばりついている人には若い京都風の男もあれば妻君を携帯している東京風の男もあった。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
金糸で大きいえび刺繍ぬいにした縹色繻子はないろじゅすの厚い裲襠しかけは、痩せてすらりとした彼女の身体からだにうつりがよかった。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
小万はすでに裲襠しかけを着、鏡台へむかって身繕いしているところへ、お梅があわただしく駈けて来て
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
「ヤレ突けそれ突け」というのは、——この時代の事ですから、今から考えると随分思い切った乱暴な猥雑わいざつなものですが——小屋の表には後姿の女が裲襠しかけを着て、背を見せている。
江戸か東京か (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
裏は天地で間に合っても、裲襠しかけの色は変えねばならず、茶は切れる、時計はとまる、小間物屋は朝から来る、朋輩は落籍ひくのがある、内証では小児こどもが死ぬ、書記の内へ水がつく、幇間たいこもちがはな会をやる
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
懐手ふところでをして肩を揺すッて、昨日きのうあたりの島田まげをがくりがくりとうなずかせ、今月このにち更衣うつりかえをしたばかりの裲襠しかけすそに廊下をぬぐわせ、大跨おおまたにしかも急いで上草履を引きッている。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)