蘇生いきかえ)” の例文
それが判って先ず安心して、半右衛門は主人の嫁の供をして帰ると、お秀も才次郎も死んだ者が蘇生いきかえって来たように喜んだ。
半七捕物帳:37 松茸 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
戸の透間すきまが明るく成った。お雪は台所の方へ行って働いた。裏口を開けて屋外そとへ出てみると、新鮮な朝の空気は彼女に蘇生いきかえるような力を与えた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
一度死んだ人間を無理に蘇生いきかえらしたり、マダ生きてるはずの人間がイツの間にかドコかへ消えてしまったり、一つ人間の性格が何遍も変るのはありがちで
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
お前さんだから蘇生いきかえった後も自害をしようとしなすったので殊にわたし此程これほどまでに様々云っても事実を明さないで、是は勿論死をきわめておいでなさるから云わないので
「夢ではありませんとも、で、私の蘇生いきかえる時もきましたから、すぐ掘ってください」
蘇生 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
吾等二人は蘇生いきかえったようになって、此度こんどは道を失わぬように注意して降ったが、休むと蝋燭を消し歩き出すと又点ける、消えたり、点いたりする山腹の火光を見て、山麓の村人は不思議がった
武甲山に登る (新字新仮名) / 河井酔茗(著)
えしぼんだ草樹も、そのめぐみに依って、蘇生いきかえるのでありますが、しかしそれは、広大無辺な自然の力でなくっては出来ない事で、人間わざじゃ、なかなか焼石へ如露じょろで振懸けるぐらいに過ぎますまい。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「いけねえ。いけねえ。幽霊が死んだら蘇生いきかえってしまうばかりだ。まあ、騒いじゃあいけねえ。おめえの為にならねえ」
半七捕物帳:27 化け銀杏 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
源に何のとががない、ということを確めました時は、両親も巡査の後姿を拝むばかりに見送って、互に蘇生いきかえったような大息おおいきをホッときましたのです。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
揺つてみても正体がないので、それから大騒ぎになつたのですが、継子さんはもうそれぎり蘇生いきかえらないのです。お医師いしゃの診断によると、心臓麻痺まひださうで……。
お隅は顔を外向そむけて、嗚咽すすりあげました。一旦なおりかかった胸の傷口が復た破れて、烈しく出血するとはこの思いです。残酷な一生の記憶おもいでは蛇のように蘇生いきかえりました。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
揺すってみても正体がないので、それから大騒ぎになったのですが、継子さんはもうそれぎり蘇生いきかえらないのです。お医者の診断によると、心臓麻痺だそうで……。
停車場の少女 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しかし、この野辺山が原へ上って来て、冷々ひやひやとしたすずしい秋の空気を吸うと、もう蘇生いきかえったようになりましたのです。高原の朝風はどの位心地こころもちのよいものでしょう。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
仮令たとえ僅かの暇でも、彼はそれを自分のものとして何か蘇生いきかえるような思をさせる時を欲しかった。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
彼は半死半生のお葉を抱えおこして、霎時しばしは飽かずにその顔を眺めていたが、やがてかたえの谷間の清水をすくい取って、女の口にそそぎ入れた。死んだ方がいっましのお葉は、不幸にも又蘇生いきかえったのである。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
庭で鳴く小鳥の声までも、大塚さんの耳には、復ためぐって来た春を私語ささやいた。あらゆる記憶が若草のように蘇生いきかえる時だ。楽しい身体の熱は、妙に別れた妻を恋しく思わせた。
刺繍 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
おしいことをたな。今お医師いしゃが来て、角川の小旦那は蘇生いきかえったぞ。」
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ホッと思出したように蘇生いきかえるような溜息ためいきいて置いて、捨吉は帳場の右からも左からも集って来る店の売代うりしろを受取った。その金高と品物の名前とを一々帳面に書きとめた。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
蘇生いきかえったか。」
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
蘇生いきかえるような空気が軒へ通って来た。夕方から三吉は姪を集めて、遠く生家さとの方に居るお雪のうわさを始めた。表の方の農家でも往来へ涼台すずみだいを持出して、夏の夜風を楽しむらしかった。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
冷い水道の水はお雪を蘇生いきかえるようにさせた。彼女は額の汗をも押拭おしぬぐった。箪笥たんすの上には、家のものがかわるがわる行く姿見がある。彼女はその前に立った。細い黄楊つげ鬢掻びんかきを両方の耳の上に差した。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)