藤吉とうきち)” の例文
かたつかんで、ぐいとった。そので、かおさかさにでた八五ろうは、もう一おびって、藤吉とうきち枝折戸しおりどうちきずりんだ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
彼は子供の時分比田ひだと将棋を差した事を偶然思いだした。比田は盤に向うと、これでも所沢ところざわ藤吉とうきちさんの御弟子だからなというのが癖であった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
土井勇次郎ゆうじろう、山口藤吉とうきちの二人と、傷ついた身をここへのがれて来たのは、むろんそのためだけではない、どこまでも大弐を刺そうと思ったからである。
夜明けの辻 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
當人たうにんをんなにかけてはのつもりで下開山したかいざんした藤吉とうきち一番鎗いちばんやり一番乘いちばんのり一番首いちばんくび功名こうみやうをしてつた了簡れうけん
片しぐれ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「百姓がばかばかしいて、百姓の子が百姓しねいでどうするつもりかい。あの藤吉とうきち五郎助ごろすけを見なさい。百姓なんどつまらないって飛び出したはよいけど、あのざまを見なさい」
隣の嫁 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
次は田町の鋳掛屋いかけやの倅藤吉とうきち、これは十二になって、たくましい子でしたが、夕方使いに出た帰り、近道をして浜で曲者に襲われ、持物も着物も滅茶滅茶に千切って捨てて、それっきり姿を見せません。
藤吉とうきちが、あたふたとってしまうと、春信はるのぶ仕方しかたなしにまつろうまえいた下絵したえを、つくえうえ片着かたづけて、かるくしたうちをした。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
それにはこたえずに、藤吉とうきちから羽織はおりを、ひったくるように受取うけとった春信はるのぶあしは、はやくも敷居しきいをまたいで、縁先えんさきへおりていた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)