蓄音器ちくおんき)” の例文
ピアノと、蓄音器ちくおんきと、ダンスと、芝居と、活動写真と、そして遊里のちまた、その辺をグルグルまわって暮している様な男だった。
一人二役 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
あまりさびしいので、昔は嫌いなものゝ一にして居た蓄音器ちくおんきを買った。無喇叺むらっぱの小さなもので、肉声にくせいをよく明瞭めいりょうに伝える。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
となりの六畳室のふすまをはずしてそこに座蒲団ざぶとんがたくさんしいてあった。先客はすでに蓄音器ちくおんきをかけてきいていた。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
それではきこえないからわからないはづです、それからまた蓄音器ちくおんきといふものが始めて舶来はくらいになりました時は、吾人共われひととも西洋人せいやうじん機械学きかいがくけたる事にはおどろきました。
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
蓄音器ちくおんきは新内、端唄はうたなど粋向きなのを掛け、女給はすべて日本髪か地味なハイカラのばかりで、下手へたに洋装した女や髪のちぢれた女などは置かなかった。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
見たものもいたことのあるものも少なかったのですから、もちろんそれは町の洋品屋ようひんや蓄音器ちくおんきから来たのですけれども、恰度ちょうどそのように冷い水はながれたのです。
イギリス海岸 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
あるいは一せきの歌をいて、その声が善ければその音声のために感情を動かされて、他のことにはなにも眼をくれない、ついに蓄音器ちくおんきの代用たるべき者のために身を誤ったりする。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
ほかにもう一つ可笑おかしいことは、室内にはポータブルの蓄音器ちくおんきが掛け放しになっていたが、そこに掛けてあったレコードというのがなんと赤星ジュリアの吹きこんだ「赤い苺の実」の歌だったという。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
もや蝋管ろうかんの出来た蓄音器ちくおんきの如く、かつはるかに響く。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
段々だん/″\うけたまはれば蓄音器ちくおんきから御発明ごはつめいになつたとふ事を聞きましたがえらいもんや、うしてもこれからの世界に世辞せじふものは無ければならぬ、必要ひつえうのものぢや
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
ふ所にお心をけて蓄音器ちくおんきからういふ発明はつめいをなさるとふは、当家こちら御主人ごしゆじんそれだけの学問がくもんもなければならず、お智恵ちゑもなければけんことぢやが、うも結構けつこう御商法ごしやうはふですな
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)