かずら)” の例文
彼らの学問は恐らく地に這うかずらのように広く拡ることができても、天に向って雄々しく伸びてゆくことができないであろう。
語られざる哲学 (新字新仮名) / 三木清(著)
大谷吉継が予見したように、臨津江の氷は半ば融けかかって居たので、柳成竜工夫してかずらをもって橋をかけたので、大軍間もなく坡州に入った。
碧蹄館の戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
どこかを行く渓流は、とどろのこだまを呼んで物凄ものすさまじい。老木のつたかずらは千条の黒蛇こくだに見える。人の足音に驚いて氈鹿かもしか
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それがかずらのからんだ小門からであろうと、粗石がただ一つころがされた目じるしの門からであろうと、あらゆる道が
久太夫かずらを用ゐてこれを縛り、村里へ引出し、燈をとぼして之を見るに髪長く膝にれ、面相全く女に似て、その荒れたること絵にかける夜叉やしゃの如し。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
水莽すいぼうという草は毒草である。かずらのように蔓生しているもので、花は扁豆へんとうの花に似て紫である。もし人が誤って食うようなことでもあるとたちどころに死んだ。
水莽草 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
岩につまずき、かずらに引っからまり、山中をかけずり回り、身体綿のごとくなってへたばる。兎は遂に行方不明。
そしてジャックリーヌも彼と同じく一生懸命になって、他のあらゆる生存の理由を破壊せんとし、愛のかずらを支持し生かしてる生の樹木を枯らさんとしていた。
ごつごつした岩の崖で、何十丈なんじゅうじょうというほど高いのです。爺さんはあちらこちら見廻してみて、ようやく一本のかずらを見つけ出し、それにすがっており始めました。
天狗の鼻 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
船檝ふねかじを具え飾り、さなかずらという蔓草の根を臼でついて、その汁のなめを取り、その船の中の竹簀すのこに塗つて、蹈めばすべつて仆れるように作り、御子はみずから布の衣裝を著て
彼は自分の実質で生きるだけの養液をもっていなかった。彼はかずらであって他物にすがらなければならなかった。自分を投げ出してるときがもっとも充実していた。
山道からふと見ると、百姓らしい男や女が幾人か、背に荷を負い、藤蔓ふじづるにしがみつき、あるいはかずらにとびついたりして、山を越えてゆく姿が張飛の眼にとまった。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雑木ぞうきと岩の間に人の通ったこみちのような処があったり、そうかと思ってそれを往ってみると、荊棘いばらかずらがそれをふさいでいたりした。二人は時どき立ち止まって足場を考えてからあがって往った。
竈の中の顔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
しかもその部屋の広さが限りない上に、燈火ともしびの光もなく、何の飾りもなく、足下あしもとにはじゅうたんのかわりに、名も知れぬ気味きみ悪いかずらいばらが、積もり積もった朽葉くちば枯枝かれえだの上にはいまわっています。
夢の卵 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
人の周囲にかずらのように伸び出してるひどい子供たち! 人を押しやり追い払ってるその自然の力!……
すると、「おーう」というほえるような声が一つ、森の唸り声の中から一際ひときわ高く聞こえてきました。王子はもう命がけになって、その声の聞こえた方へ、いばらかずらの中を踏み分けて進んでゆきました。
夢の卵 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
書き終えて立ち去らなければならないときになって——すでに墓から三、四歩遠ざかったときに——彼はふと思いついて、またもどって来、その手帳をかずらの下の草の中に埋めた。
何しろ誰もはいったことのない山の森で、昼でさえその中はまっ暗なほどおい茂っていて、枯枝かれえだ朽葉くちはの積もり積もった上に、いばらかずらがはい廻っていて、いくら象でもなかなか上って行けませんでした。
夢の卵 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
皮肉や逸楽のあらゆる武器を用いた。欲望や細々こまごました心労のかずらで彼をからめた。