花梨かりん)” の例文
今度は落著おちついて、畳の上にすわりこんで、毎日使っている花梨かりんの机の上に立ててみると、三、四分でちゃんと立たせることが出来た。
立春の卵 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
プーンと醗酵はっこうしている花梨かりんれたかきは岩のあいだに落ちて、あまいさけになっている。鳥もえ、栗鼠りすものめ、はちもはこべと——。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし、甲谷の得意なシンガポールの材木は、花梨かりん木もタムブリアンも、ミラボーも、に一つとして見ることが出来なかった。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
一間の床の間に違いだなの附いた八畳の間で、花こそ生けてないけれども、そんなに悪い趣味でない掛軸、置物、欄間の額、二枚折の屏風びょうぶ花梨かりんの卓、卓上の煙草セット等が
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
正面、奥とのさかいに銀いぶし六枚折りの大屏風おおびょうぶ、前に花梨かりんの台、上に鎧櫃よろいびつが飾ってある。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
美麗さと安直さによって驚嘆すべき、花梨かりんの箪笥を見せるためである。
(新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
金砂子きんすなごの袋戸棚、花梨かりん長押なげし、うんげんべりの畳——そして、あわ絹行燈きぬあんどんの光が、すべてを、春雨のように濡らしている……。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わずかに庭前のかけひの傍にある花梨かりんつぼみが一つほころびかけているのを、いかにも尼寺のものらしく眺めなどしながら、山の清水の美味なのに舌鼓を打ちつつコップに何杯もお代りを所望したりして
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そして二人は外に、東儀与力は屋内にひそみ、指南間の大きな花梨かりんの客卓を衝立ついたてのように立てかけて、その蔭に、息をころして張りこんでいた。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
軸には花梨かりんの木が用いてあり、表装には金襴きんらん古裂ふるぎれが使ってあって、何となく秘品の紐を解く気持をいだかせられる。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あっと、思わず首をすくめたせつなに、黒衣くろごの武士が、足をあげて、鉄板のように重い花梨かりんの大卓を蹴たおしたので、東儀与力はその下に押しつぶされて
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
よその屋敷の塀の上にたまたま、その蜜柑があったと思って、盗んでもほしい気がして寄って見ると、それはだいだいであったり、喰べられない花梨かりんであった。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、文彬ぶんぴん花梨かりんの大机から向き直って、正式に、何濤の手から公文を受領し、即座にそれをひらいてみた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
瘡口はさながられた花梨かりんぐらいにふくれあがっている。華陀は嘆息をもらした。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いいえ、古くはございますが、日本でできたものでございましょう、めいに、嵯峨さがとありますゆえに。それに、唐琵琶は多く胴を花梨かりんでつくりますが、これは、日本の黄桑こうそうでございます」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのうちにまた、村長の家から、花梨かりんの立派な卓と椅子いすがかつがれてきた。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこに四、五本の花梨かりんの木がえていた。秋から冬にかけて黄色い果実がつく頃には、この樹のがもつ特色のある芳香が、世阿弥をひどく慰めてくれるので、友達のような気がする樹である。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
花梨かりんこずえに白い花がうごく。山葡萄やまぶどうの葉がペルシャ更紗さらさのように染まる。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その上にすばらしく巨大な花梨かりん客卓きゃくたくがどっしりとすえてある。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)